2023年7月7日金曜日

令和五年 春興帖 第四(辻村麻乃・竹岡一郎・早瀬恵子・木村オサム)



辻村麻乃
動かざる花に花人動きたり
萼片の五枚の揺らぎ節分草
鬣に風を孕みて厩出し
花かたくり秩父の土と引合へり
蝶二頭高く翔びたる保存林
耕人に短き影の付き纏ふ
歯の抜けるやうに散りたる花辛夷


竹岡一郎
降る花に交じる鱗をことづてと
妓をかこむ奔流として雪柳
()り急ぐなよきさらぎの無人駅
菜種河豚づくしの膳をふるまはる
鏡像の右手ひだりに映る朧
蝶湧くを見し葬儀屋はきびきびと
(みんなみ)を指す梅が枝を散杖とす


早瀬恵子
ウイルスと一刻者とタテの春
ウ(ベン)一山僧侶の空の高野槇
天晴な実家の片づけ揚羽蝶
星めくやあのねのあなた霞草


木村オサム
ガウディの佇んでいる春の泥
とぼとぼと行けば渡れる薄氷
理科室のビーカー光り卒業す
蛤の中は弥勒の舞ふ宇宙
足跡でだいたいわかる四月馬鹿