2023年10月13日金曜日

令和五年 夏興帖 第一(仲寒蟬・辻村麻乃・仙田洋子)



仲寒蟬
夏草に地雷ラフマニノフの国
罪多き顔を映して蓮の水
切通抜け人間に戻る蛇
チャーチルの蕃茄ヒトラーの唐辛子
安土城礎石百十雲の峰
物欲の覚え初めは夜店なり
汗だか雨だか額から項から


辻村麻乃
すんすんと窓辺の豆苗夏日呑む 
水打てば板戸に影の動きけり
まひまひや出やうとしても戻さるる
階段の隙間にぐんと濃紫陽花
虚ろなる埴輪の眼窩虎が雨
紋黄揚羽懐いて低く翔びゐたる
四丁目異国の香水すれ違ふ


仙田洋子
百日紅ゐてほしき人ばかり死す
水打つや夫の亡き世にまだ生きて
死装束ぱつと広げしごと白夜
油蟬雲の過ぎゆくたび鳴けり
うすばかげろふ罪なきもののごとく飛び
夫の亡き誕生日なり水を打つ
納骨の決心つかず百日紅