2023年10月27日金曜日

令和五年 夏興帖 第三(竹岡一郎・木村オサム・ふけとしこ・山本敏倖)



竹岡一郎
烏蛇墓から墓へ伸び渡る
守銭奴がそちこちを灼く人いきれ
麦秋や画家の眼くはへ鴉は陽
貴き血吸つて山蛭まろく浮く
満員電車ホスピス掠め螢撒き
玉虫の重きに傾ぐあたしの死
一揆の徒退けば阿弥陀に灼かるると


木村オサム
風なんて食いたくねぇよ鯉幟
たよりない手品見終えてところてん
思い出せないがいい句だ昼寝覚
月涼ししづかに笑ふ鳥男
顔のない時間を進む蓮見舟


ふけとしこ
比良よりの水に沢蟹育ちたる
沢蟹の爪立てしまま流さるる
いつまでも見て赤腹の消えし水
守宮出づ琉球硝子の濃き青に
西表島眼の赤き蛾にも遇ひ


山本敏倖
美意識の刺中和する梅雨の蝶
羽抜鶏素数にようにカタルシス
わたくしを泳いでいます藪の中
かき氷遠い過去から声がする
神話への秘史をつづりし蝸牛