2020年4月10日金曜日

令和二年 春興帖 第四(前北かおる・神谷波・杉山久子・望月士郎)



前北かおる(夏潮)
影法師見ながら踊る春日かな
汽笛うららか羽田からどこへ飛ぶ
うららかや癒えて身体の絞れしと


神谷波
離れ座敷や溺愛の色の梅
誰からも相手にされず蕗のぢい
リュックおしやれコートもおしやれ風光る
三月十一日菜の花そよいでる
COVID-19荒れ狂ふ中開花


杉山久子
スケボーの板裏青し鳥雲に
確定申告終はる蝌蚪の紐伸びる
春暁やわが消化管さくら色


望月士郎
春満月この世に入口と出口
二枚セットの三角定規猫の恋
薄氷の奥にぼんやりと唇
花明り人みちあふれている無人
ど忘れのように父いる潮干潟

2020年4月3日金曜日

令和二年 春興帖 第三(堀本 吟・木村オサム・林雅樹)



堀本 吟
先生の提げて来られしシクラメン
紅色の品佳き花ぞ悟朗の忌
  ・・・・・
ももいろの耳たぶ弐つ豚饅頭シクラメン
流行風邪ウィルスが風の息する篝火草シクラメン


木村オサム
啓蟄の体温計がピッと鳴る
啓蟄やにっぽん木乃伊大図鑑
目覚めると首絞められた痕地虫出づ
啓蟄のちくわの穴を覗きをり
啓蟄や駄々こねやすき畳部屋


林雅樹(澤)
コロナ怖じて朝寝続ける女かな
ワンテンポ遅るゝダンス柳の芽
失踪せる友に会ひたり苗木市

2020年3月27日金曜日

令和二年 春興帖 第二(五島高資・松下カロ・辻村麻乃)



五島高資
羚羊と目の合ふ時つ風光る
春の風邪ナツメ球の灯目に刺さる
牡丹雪湯の沸く音の中にをり
龍天に登りし松の馨りかな
目を閉ぢて春の入り日となりにけり


松下カロ
父の足さがし続けて春炬燵
息をもて銀器曇らす鶴帰る
春炬燵遠く多産の国があり


辻村麻乃
ビル街の古りて社に淡き梅
白加賀の雄蕊を風の撫で回す
これからと連呼する人梅見かな
枝ぶりを褒めて梅見の車椅子
探梅や口を開けたる老婦人
ぷつぷつと蜆先刻の息を吐く
クロッカスはち切れさうな犬連れて

2020年3月20日金曜日

令和二年 春興帖 第一(仙田洋子・曾根 毅・夏木久)



仙田洋子
春の鹿地軸のやうに傾けり
超新星爆発無音梅白し
梅白しわが細胞も新しく
雛人形みな正面を向く怖さ
カルメンの踏みつけてゆく落椿
影あれば影に佇み桜かな
永遠を追ひかけ雲雀揚がりけり


曾根 毅
瓦礫より赤い毛布を掴み出す
死んだ人らの拍手のようにかぎろい
春めくや坂の時間が長くなり


夏木久
春立ちて入るか出るかの手がノブに
コンタクトその涙目を鳥帰る
行旅死の百円ライター春燈
立春や隙間に水を流し込み
永眠は家出するやう大人しく
箸置きに山背のこと大和のこと
ノートには戯画も寺もの記憶あり

2020年3月13日金曜日

令和元年 秋興帖追補/令和二年 歳旦帖 第十(家登みろく・井口時男・仲 寒蟬・五島高資・佐藤りえ・筑紫磐井)



家登みろく(森の座)
福達磨 勝ちにゆくにはまだ素く
独り居の豆撒壁を跳ね返る
海老押しのけ蛤開くちからかな


井口時男
ひしめいてスマホかざすも年迎へ
死者たちの書物並べて去年今年
乳の香うつすら人の日のエレベーター


仲 寒蟬
進むべき道は初湯の湯気の奥
一族とともに縮小鏡餅
仕舞湯の湯気の多さも四日かな
電線の見えぬ空なし初景色
ぺたぺたと赤子の触れて鏡餅
どんどの火こぼれしばらく地を焦がす
ミサイルのあと七草粥のニュース


五島高資
初富士や背骨を昇る炎あり
立ち返る山懐や初筑波
初日影とりどりにあり花崗岩


佐藤りえ
歩み越しとりかへばやの去年今年
  今生のいまが倖せ衣被
根性のいまがっついてからみ餅
瑞雲で阿難迦葉を牛蒡抜き


筑紫磐井
子の年の子の国にある御慶かな
先生虎皮下で届く賀状の見覚えなし
さっそうと坊主屏風に消えにけり


【秋興帖】
井口時男
銀河流れよ廃墟も青き水の星
俳諧は死語の波寄る秋の岸
瓦斯燈に秋ともし行く影男
身の秋を泪橋から山谷まで
月蹣跚コンビナートがのたくる
黄落の中を眼病みの独学者
山姥も綴れ刺すかよ冬支度

2020年3月6日金曜日

令和二年 歳旦帖 第九(下坂速穂・岬光世・依光正樹・依光陽子・のどか・水岩瞳)



下坂速穂
初便りにはお互ひの母のこと
店子いつ入れ替はりたる飾かな
どんど焚くけむりは蘆花の旧居へと


岬光世
飾取る品川宿を後にして
小正月過ぎて売約済の花
帯留を愛でてもらひし女正月


依光正樹
花街あり焚火をぢつと見つめたる
露地の人しやがんで立つて年詰まる
亡き人と冬あたたかき手拭屋
侘助や露地の途中に店があり


依光陽子
のし餅のうんと言はする厚みかな
枝撥ねて一鳥枝に淑気かな
鳥のほか父母のゐる御慶かな
かめむしの白き半分寒暮かな


のどか
大氷柱風のおらびを閉ぢ込めて
軒氷柱の雫となるや星の声
バラライカウォッカに氷柱つき立てて


水岩瞳
雑の句を集めて久し師走かな
大安で締め括りけり古暦
初日記また書いてゐる今年こそ
初詣いつもの神社いつも吉
読初の一書「ポピュリズムの功罪」

 

2020年2月28日金曜日

令和元年 秋興帖・冬興帖追補/令和二年 歳旦帖 第八(林雅樹・小林かんな・小沢麻結・渡邉美保・高橋美弥子・川嶋ぱんだ・青木百舌鳥・家登みろく・水岩瞳・井口時男)

【歳旦帖】

林雅樹(澤)
カレンダーお渡し会や握手なし
輪飾や犬寝そべりて町工場
『ラ・カテドラルでの対話』下巻を読み始む
バイアグラ飲めば頭痛や姫始
後期高齢者餅の早食ひ大会ぞ


小林かんな
ペンキ絵の富士の嶺年のあらたまる
はろばろと鳥の声して初射会
白足袋を奉射の幅に広げつつ
つつしんで後ろの射手も矢をつがえ
隅っこに突き当たりたる嫁が君


小沢麻結
読初や私淑の心定まりて
繭玉の揺れ止み影はなほ揺らぎ
向合ひの真珠大玉初句会


渡邉美保
手拍子は祝うて三度実南天
祝杯の金粉沈む手毬歌
波音を聴きとめてゐる初鏡


高橋美弥子(夜守派)
御降や猫の鼻先ふくふくり
女正月母の銘仙帯の蝶
初買や高齢猫の缶選りぬ


川嶋ぱんだ(夜守派)
元旦の廊下の人はちりぢりに
人は水 木も水 寒九の水を汲む
怒鳴りたるチーズと置かれたる御屠蘇


青木百舌鳥
フロントの肌つるつるの鏡餅
席ゆづるゆづらるるまた厚着なる
寄鍋のアルゼンチンのエビとかや
冬の蠅なぜ居るなぜに見当たらぬ
節分草石に膝つき誉めにけり


【秋興帖】

家登みろく
秋初めきつね色帯び昼の月
一茎に命ぎつしり蝦夷竜胆
鋸を引く背押す肩うろこ雲
馬の眼の光恋しと残る蠅
颱風のかきまぜてゆく芋の蔓


【冬興帖】

水岩瞳
カプチーノのハート崩れてレノンの忌
冬三日月阿弖流為のこと母礼のこと
散紅葉天より降つて天を透く
父が父らしき頃なり懐手
寒紅を引くきつちりときつぱりと
思春期の黙の主張や青木の実


家登みろく(森の座)
千切れてはまた集ふ雲千空忌
落葉道深くもわづかに師の軌跡
棘なき青森薊句碑に供す
白息の激し俳論語らへば
着膨れて母小さき荷を持て余す


井口時男
母我を忘れたるとか雪便り
メルカリで背骨売ッたるや冬ごもり
新巻がクワッと眼を剥く雪起し