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2025年1月10日金曜日

令和六年 夏興帖 第八/秋興帖 第七(下坂速穂・岬光世・依光正樹・依光陽子・川崎果連・前北かおる・中嶋憲武・早瀬恵子・小林かんな)

【夏興帖】

下坂速穂
横丁にスナックのある浴衣かな
説教やバナナの横に皮置いて
瓜を噛むやましいことの少しある
白玉やほなと話を終はらせて


岬光世
ラムネ持つ指輪の指を立てて待つ
狢藻の花へさつきと同じ人
何代目かと寺島なすの花に問ふ


依光正樹
若葉して匂ひのつよき花咲いて
赤きもの夏の落葉の中にあり
光る蟻光らざる蟻蟻の道
明るきも昏きも佳しや金魚玉


依光陽子
汐干狩より帰りたる息を吐く
年輪に鑿で分け入る青葉かな
トマト二個箱に偏る暗さかな
出目金の目のバランスの憎からず


【秋興帖】

川崎 果連
秋雨をバケツにためて牢に置く
前置きの長い戦争桐一葉
まだ斬るかそこまで斬るか村芝居
やわらかく生まれて硬く死ぬ秋思
死者の手を組むは生者や秋深し
秋深し牛が見ている遠い沖
ミサイルの光沢秋鯖の捩れ飛び


前北かおる
爽やかや人にバッグを担がせて
秋蝶に誘われゆく芝の上
また人にしがみつきたるいぼむしり


中嶋憲武
口語訳の月夜へひらく紙の質
月白を逸れ桃いろの足のうら
ことば古ければ鶴来るためしあり
童貞を捨てれば刈田広がる死
稲妻に文字追ふ闇の高架駅
晩秋の手相知らない紫雲の木
濡れてゐて月のほとりの茶葉ひらく


早瀬恵子
紅葉かつ散るケーキタワーにも紅葉
琵琶湖爽秋幽庵焼に灯す舌
ひ孫集える花圃よ秋蝶のラルゴ


小林かんな
広島の果物届く今朝の秋
大西瓜種父の十八番を皆が言い
女郎花二手に分かれ探し出す
神将のみな秋冷に影を負い
秋風のしみて獄卒目しばたく

2024年12月27日金曜日

令和六年 夏興帖 第七/秋興帖 第六(中嶋憲武・早瀬恵子・小林かんな・眞矢ひろみ・渡邉美保・村山恭子・松下カロ)

【夏興帖】

中嶋憲武
昏い火を置く白馬となれぬ夏の霧
蟻ひとつ潰し近代戻り来る
電話の向うに雹の昼の飛来
ローマは夜蝋燭しろく海月の密
海草の夜を貸しボート哀しむ北部
玻璃戸夜の呼吸閉め梅雨の星数へず
馬が立つ仕種の芒種倦む儀式


早瀬恵子
ヴィオロンのニンフの風や瑠璃の羽
茉莉花や彫刻美男のジャムセッション
バリ~ハイ~サザンクロスや王の道


小林かんな
梅雨の月グリコの下に少女たち
地下鉄の入口二つ蝉の声
電磁調理器勧める人へ出す麦茶
夜濯ぎや老人ひとり分の脂
踏まれたりサーターアンダギーと蟻


【秋興帖】

眞矢ひろみ
終バスに終わりありけり星月夜
また一人をんな死にゆく西鶴忌
老鞣すつるべ落としの山河かな


渡邉美保
捨て舟に鴉来てゐる残暑かな
大太鼓小太鼓干され九月来る
秋の風父似の硬き爪を切る


村山恭子
南門の礎白し荻のこゑ
子蝮の秋思よ半呑みの蛙
親さがし露の木の実をさがす熊


松下カロ
秋刀魚の頭ふたつ食べ愚かなまま
人形の目のあをあをと鳥渡る
流木は月の軍馬となりにけり