曾根 毅
葉脈の薄きひかりを囀れり
光る桃われと齢をともにせし
湖の水底固し花の冷え
瀬戸優理子
合格を決めし拳や春にひらく
巣立鳥指紋の残る子供部屋
泣きすぎの眼が雲雀野に途中下車
アマリリス恋した記憶だけ脳死
花は葉に二度目は事実婚えらぶ
浜脇不如帰
テロメアの増しゆく癌のねぐるしさ
無訓練冷酒キラーT細胞
涼しげにきびすまで真空パック
七重虹ラザロにもキリスト泪
涼やかに地を刺す十字架の柔和
貫く棒じゃなく彩濃しなつやすみ
カルバリの十に畏まるがラムネ
小野裕三
春眠の稀に平行四辺形
設計図通りに咲いて一輪草
豆の花双子似たまま老いゆけり
囀りや離れ離れにショベルカー
傷心に虹と名づける選択肢
小林かんな
初夏を行きつ戻りつ鶏冠の緋
あめんぼと古墳と浮かぶ昼下がり
空海へさかのぼる寺燕子花
鳥たちも天皇陵も茂りのなか
山滴る神杉のそこかしこ
杉山久子
かぷかぷと鯉の口来る芒種かな
魚偏だらけの湯呑み走り梅雨
更衣へて雨音ひびく躰かな
ふけとしこ
一つ葉の崖より鳥の弾け飛び
河骨が咲いて睡魔が立つてゐて
河骨の水に鉄気の差す処
源三位頼政の忌や鮠の群れ
ソーダ水むかしが青く近づきぬ
岸本尚毅
摘草やましらの如く手の長く
蟇のせて蟇泳ぎをりつるむなり
花ゆふべダフ屋大きな眼の男
墓買へと電話の男昭和の日
浮人形あはれ税込二百円
青芝や茸淋しく生えてをり
夕立の傘の絵柄の西瓜など
花尻万博
蜥蜴泳ぐいつかの尾を尻に接ぎ
短夜の影に魚ある嬉しさよ
言の葉を思ふ誘蛾灯光るたび
夜に釣るフィリピン大きく火を立てて
蛍火を吸ひこむフォークダンスかな
焦げてゆくあやめの中の産毛かな
木苺落ちてゆくわたくしの底にまで
仙田洋子
藤波が藤波を呼ぶ昼下がり
潮風にこぞりて傾ぐ松の芯
墨堤に座して草餅桜餅
金継のウェッジウッド春深し
とんとんとけふも生きのび雀の子
行く春や駅の手書きの時刻表
炒飯の焦げ目くつきり夏近し
山本敏倖
陰暦に遠近つけるいそぎんちゃく
そう言えばあじさいは複眼である
空蝉や組香薄く残りおり
かっこうの蝦夷訛りを私す
真昼間を垂直にする蜘蛛の糸
坂間恒子
烏瓜の花流謫に似しおもい
山奥の宿の白蛾を追い詰める
少年らの聖歌合唱ほたる飛ぶ
寂しさの真ん中に渦太宰の忌
足裏の湿疹あざやか薔薇繁殖
大仏の背中がひらく夏つばめ
夢のなかまで十薬の花追いかける
辻村麻乃
しやがみこむ人人人の汐干かな
汗の子の目を丸くしてマンボウ来
楽屋出て雨の気配や金亀虫
夏大根頷くだけの夫と食ぶ
雷一閃海の底ひを見しと云ふ
電線の撓むビル間の夕薄暑
老鶯の仕切りに鳴きて湾明くる
佐藤りえ
遠蛙誰か帰つてくる夜道
雛形にうつかり名字書いてある
跳び箱の頭に座りうららけし
筑紫磐井
天地創造の翌日蝌蚪ぐもり
能村登四郎が作りし季語や櫻しべ
暗黒のカーネーションを母に賜ふ
下坂速穂
木の痕に空の広がる余寒かな
猫柳きのふゆきすぎたる路の
朝見て夜見つめたる雛かな
目刺焼く夜の青空を帰り来て
岬光世
花の種蒔きし故国の土の色
首ちぢめ漕ぎ続けたり半仙戯
春塵や風切羽を授かつて
依光正樹
黄梅や運河にひとつ灯あり
料峭や訪ねあてたる寺ひとつ
髪切つて自由になりし春の雷
春昼の喉にやさしきレモネード
依光陽子
犇犇と紅梅の咲き古びつつ
春の死を鳥の遺した羽根で弾く
新月のあるべき空や鳶の巣
ぱつと開くと同じ頁の春深し
堀本吟
みどりの日シルバーワークへ通うらん
万能のおむすびの味春ならん
侵攻や海市も的になるならん
高橋修宏
一列の戦車の終わり見えず春
春昼の微塵となりしかみがみよ
花よ鳥よ消えてしまった子どもたちよ
来るはずのなき姉を待つチューリップ
恋猫を追うや性別など捨てて
春の風邪やがては蝶となる話
蝶に問う道の終わりのその先を
小沢麻結
車捨て歩み行くなり春の雪
世を探る二股の舌蜥蜴出づ
おばさんは転居土筆は伸び放題
浅沼 璞
まだそこに救急車ある蝶の昼
弁当も雲もあまりて春の丘
中腰の人ばかりくる沈丁花
裏門を平たくぬけて卒業す
濡れながら人見おろせる柳かな
片栗の皆すなほなり反り返る
手放しの手話で咲かせる花みづき
ふけとしこ
印影も記憶も薄れ春の鴨
菫濃し手に載るだけの石拾ひ
須磨浦や菫に風の吹きつけて
前北かおる(夏潮)
着陸の窓を引つ搔く春の雨
うららかやへうたん島の滑走路
モッツァレラチーズのピッツァフリージア
松下カロ
青き踏むビロードの中国靴で
たんぽぽの絮ことごとく川へ落ち
建てるため何か壊して春の丘
渡邉美保
透きとほる幻魚の干物春北風
くろもじでつつけば鶯餅の鳴く
下萌えや置きつぱなしの絵具箱