2022年10月14日金曜日

令和四年 夏興帖 第三(ふけとしこ・なつはづき・小林かんな・神谷 波)



ふけとしこ
陵の草を刈らんと舟を出す
首筋へ蝉声寺の屋根が反り
山号は知らず涼風いただきぬ


なつはづき
蟷螂生る強運奪いあうように
姫女苑飛ぶには小さ過ぎる風
運び屋の帰りを待っている金魚
ハイビスカス現地時間であれば恋
すいかずらそっと引っ張る男運
チアガールのえくぼに夏の陽が溜まる
ずかずかと猫に踏まれる暑気中り


小林かんな
蒼朮を焚くくれないの蔵書印
ほととぎす人の子供も食べさせて
日日草地蔵の目鼻石に溶け
はも祭屏風の中に川小さし
コンチキチン昂ぶりのまま髪洗う


神谷 波
きまぐれな雨にざわつく青芭蕉
好きな言葉「明日」やまももシャーベット
強烈な日差し毅然と咲く蘇鉄
明易し狐にサンダル偸まれて
砲弾が飛び交ひ向日葵咲き乱れ

2022年10月7日金曜日

令和四年 夏興帖 第二(池田澄子・加藤知子・杉山久子・坂間恒子・田中葉月)



池田澄子
橡咲いていて茫然と空厚し
伸べし手をウフッとよけたでしょ揚羽
日本は初夏テレビにきらきら焼夷弾
真夜を猛暑のテレビニュースに文句あり
八月十五日テレビを点けっぱなし
夏百夜とどくとはかぎらないことば


加藤知子
毛のものはうんちのにおいみなみ風
夕立の初めの匂い忘れつつ
アイス棒舐めてしゃぶりて優柔不断
夏のはてあと何日自力排泄か
花デイゴ落ちて出会えるひとと落つ
なんでそんなこと言うのと夜の秋立ちぬ


杉山久子
草原となりしみづうみ星涼し
黒黴を殺す手立てを検索す
どん亀と呼ばれて昼寝より覚めぬ


坂間恒子
夕顔の微熱の闇に水を遣る
自販機の群生船虫の磁力
白木槿古代微笑の交わらず
さるすべり鏡に微熱あるような
仏の間戦ぐ音する青芒
山鳩の鳴けば晩夏のうす濁り
ヨット消えつややかなりし椿山


田中葉月
天道虫補陀洛へおすなおすな
青栗のしきりに落つる七七日
端居してアンダルシアの風の中
吸つて吐くただそれだけか月下美人
蟻の列それより先は異界なる

2022年9月30日金曜日

令和四年 夏興帖 第一(早瀬恵子・辻村麻乃・大井恒行・仙田洋子)



早瀬恵子
山高帽バイセクシュアルな薔薇の棘
スペイン語の愛称は「ガタ」夏の猫
エポックを愛せよ鱧の俳句バー
蔓は西に遠回りしてクレマチス


辻村麻乃
 耳鳴
隧道の壁を殴りて梅雨に入る
風雲児連れて来らるる滝の前
胎内にシャーリラといふ木下闇
大ぶりの葉より大暑の風貰ふ
リンパ液揺れ蝸牛管まで蝉時雨
立葵立つる音まで嫌になり
自転車に置き忘れたる竹婦人


大井恒行
影の夏天地に被曝あらしめるな
眼には眼を 願いはるかや魂祭
重信房子白い小さな鶴折ると


仙田洋子
押し寄する貌・貌・貌や油照
原宿の赤ゆるぎなき氷水
祭の子おほきな人とぶつかりぬ
山車過ぎてまた天丼を食べ始む
人逝きてほろほろのうぜんかずらかな
どしや降りの一茎高き蓮の花
白扇の空を招いてゐる如し

2022年9月23日金曜日

令和四年 花鳥篇 第七(水岩 瞳・下坂速穂・岬光世・依光正樹・依光陽子・佐藤りえ・筑紫磐井)



水岩 瞳
ふらここやまだ歌へます校歌一番
春炬燵しまひ彼のことしまひけり
人間を無防備にする桜花
ゴム巻いて放つ飛行機なら夏野
夏草を刈つて交渉始めんと
学校は対面ばかり風死せり
万巻の花鳥諷詠きらら棲む


下坂速穂
乗らずに次のバスを待つ若葉風
木へ影を寄せて遠くへ黒揚羽
向日葵を包む異国の新聞紙
手応へのなき闇にして蚊喰鳥
  

岬光世
切通しへ人往きにけり紫荊
牡丹や雨の乱れを残す蘂
花菖蒲影を崩さず揺れにけり


依光正樹
さへづりの光を享けし女かな
桜あり今も故人の思ひあり
食紅を使ふ指濡れ八重桜
幾日も通ひ続けし八重桜


依光陽子
白湯淹れて朝はじまる梅若葉
何処よりの柑橘の香や花に雷
揺籃に影射すえごの若葉かな
木格子は木蔦を這はす夕立かな


佐藤りえ
ドローイングの爪伸びてゐる春霞
麦秋の野末に野菜売る戸棚
暇さうなカーネル・サンダースに風鈴


筑紫磐井
 祝「篠」
しづかなる前衛といふ風が吹く
周辺に風吹いてゐる俳壇史
夜の秋夫と妻の隙間かな

2022年9月2日金曜日

令和四年 花鳥篇 第六(妹尾健太郎・松下カロ・小沢麻結・林雅樹・竹岡一郎)



妹尾健太郎
引っこ抜く涙の乱舞かつお潮
麦秋の濃尾三川瞬く間
髪洗う真下音する大江戸線
指なめて風向きを見る子蟷螂
妹の方がわんぱく今年竹


松下カロ
紫陽花はのけぞる誰か過ぎるたび
白波を小さな蛇と思ふなり
洗面器凸凹あれば明易し


小沢麻結
生若布スパークリングワイン買ひ
さくらさくらかの日昨日のやう今も
瑠璃蜥蜴瑠璃躍らせて転び逃げ


林雅樹(澤)
遊民となりて一年夕桜
露出狂神出鬼没囀れる
地割れへとビルも若葉の街路樹も


竹岡一郎
悲の蟬や瞋恚に焦げし背にとまる
夏書重ねてわが妄執を見殺すまで
怨府こそ白蓮(わら)ふ音とどろく
川床に招かん書淫なだめんと
翡翠に魚めぐまるるほど無聊
山盛り素麵無常の如し平らげる
雹止まず人魚も姉も泣くを知らず

2022年8月26日金曜日

令和四年 花鳥篇 第五(加藤知子・仲寒蟬・望月士郎・網野月を・渡邉美保)



加藤知子
日本哀歌蓮ひらかねば銃を撃つ
日盛りの弥栄の(きわ)へ手製銃
夜の雷鳴元宰相を輝かす
安全神話を石棺に供す星祭


仲寒蟬
蠅生まる憎まれ叩かるるために
まやかしもあやかしも連れ夜桜へ
南家より北家へ蕨とどけらる
白鷺の捕食者の目に見られけり
掌の上に啓示のごとく蜥蜴の尾
屑金魚などとよばれて元気なり
遠縁は黄河にをると梅雨鯰


望月士郎
たんぽぽのわた吹いている測量士
手紙を書くときおり蛍狩にゆく
父さんの言った言わない胡瓜揉
昼の月仰向けに蟻に運ばれて
噴水にどしゃぶりのきて笑い合う
なつやすみ白紙に水平線一本
少年の脱け殻あまた青葉闇


網野月を
ペトロ祭生まれ変はりの小漁師
日盛の電信柱すでに人
病葉を堕とさぬやうに柾立つ
石竜子の子築地の藁に獅噛みつき
夕顔や今は稔りて古女房
向日葵やハートいつぱい随へて
甘いトマトは嫌いな人です自炊派です


渡邉美保
水底も櫻待ちをり魚群れて
車前草を踏んで手足の老いにけり
薄衣や和泉式部の墓の前

2022年8月19日金曜日

令和四年 花鳥篇 第四(木村オサム・鷲津誠次・神谷波・眞矢ひろみ・浅沼 璞)



木村オサム
血の音の聞こえるからだ花明り
終わらない準備体操花の昼
まあひとりぼっちでいいか藤の夜は
ちょっとした会釈のあとの蛇の衣
完璧な幻聴ですがほととぎす


鷲津誠次
薄暑なり家裁へつづくうねり坂
暮れかかる湖と休日缶ビール
下校児はみな白き腕ひまわり立つ
何もなきふたり暮らしや西日濃し
ソーダ水ふひに相続税の話


神谷波
細波や揺れ合つてゐる小判草
風涼し鳥楽しげに鳴いてゐる
  庭先
選りし木に取り乱し鳴く老鶯
裏庭に紛れ込みたるねむの花


眞矢ひろみ
長茄子の串を誘ふ怖さかな
トランペットの金色鈍し夏の果
天道虫半球の背に空纏め
大西日降りますボタン押す指に
手花火の一閃脇にものの影


浅沼 璞
藤房や読書の汝に匂はざる
まんさくが一本ゆるやかな斜面
木瓜の咲く失礼なこと言ひだしぬ
メーデーの目抜き通りを口あけて
五月五日まな板の鯉目覚めたる
袋角はんなり藁小屋に光る
紫陽花の向うを新たなる野犬