2023年12月8日金曜日

令和五年 夏興帖 第七(冨岡和秀・花尻万博・青木百舌鳥)



冨岡和秀
アフリカの実存者来て人光る
不明の「それ」捉えれば我消滅す
思考神ウィトゲンシュタイン我が聖性
頁繰る指先はしる文字群霊
古神道みなもとに居るシャマニズム
岩塊に刻んで読みし阿毘(アビ)達磨(ダルマ)
古インドのヨーガを極め昇天す


花尻万博
水からくり父だんだんに忘れてゆく
どこからを意味と仰つしやる喜雨休み
滝の水この世へと引き戻されて
今は今で他人となりて蕗を跨ぎ
藤枕頭でつかちご遠慮ください
蚊帳低し結び目一つ子に託し
走馬燈増えゆくいとこはとこにも


青木百舌鳥(『夏潮』)
田植機の拍子たかたか稲を植う
かなかなの声や呼応し退潮す
フェンネルが育つて咲いてピザの店
往来の風のぐちやぐちや熱帯夜

2023年11月17日金曜日

令和五年 夏興帖 第六(小沢麻結・浅沼 璞・望月士郎・曾根 毅)



小沢麻結
男振りなり飛魚の流線形
海酸漿鳴らしたく浜去りがたく
黒塗りの車止まりぬ鮎の宿


浅沼 璞
歓声のかすかに届く夏座敷
絵簾のはためいてゐる不在かな
隙間から笑ひ返してくる裸
蟻の巣に群がるかゆみ上腕に
壁一面苔ぎりぎりに車体かな
兜虫うごくを素手でもち帰る
噴水の奥で懺悔をしてゐたり


望月士郎
にんげんの流れるプール昼の月
心臓は四部屋リビングに金魚
はんざきのまなうら飛行船がくる
火取虫あの世の片隅にこの世
転生の途中夜店をかいま見る


曾根 毅
どうしても傾いてくる冷房車
血管の浮き上がりたる青葉山
花菖蒲脚の先から消えかかり

2023年11月10日金曜日

令和五年 夏興帖 第五(神谷波・松下カロ・加藤知子)



神谷波
夕涼し川辺の杭にいつもの鳥
山々の輪郭ぼやけたる暑さ
地球沸騰宣言中の青田
枕辺の時計正確明易し
 

松下カロ
乗り換への多い切符の青海月
先をゆく少年の丈まくなぎほど
雲水の指のきれいな蝸牛


加藤知子
梅雨寒やロダンの男鼻をかむ
戦争に捕まっていくまいまい
獣肌が夕焼けるから戦争が
踊り子を物色ドガの箱庭へ
カノンロック少女白雨(ゆうだち)感電す

2023年11月3日金曜日

令和五年 夏興帖 第四(岸本尚毅・小林かんな・瀬戸優理子)



岸本尚毅
梅雨深し水に映れる蜘蛛の糸
その墓の涼しく町の音遠く
野の百合が見えて大きな墓の百合
夏の雲何の煙突かは忘れ
町角に神を説きをり凌霄花
山の宿蠅少なくて大きくて
堀に蓮咲いて城主は佐竹様


小林かんな
父の日の保険会社のタオル干す
蛇見る子見ない子土手にもつれ合う
夏の雲金管楽器待機する
日焼して山羊を迎えにゆくところ
昼寝して声を忘れてきた子ども


瀬戸優理子
没頭の時計のゆがみ濃紫陽花
われわれを試すパセリの露悪趣味
絶交の青いハンカチ借りたまま
汗を拭き拭きいい人になるノルマ
ソーダフロート宇宙の話まで飛んで

2023年10月27日金曜日

令和五年 夏興帖 第三(竹岡一郎・木村オサム・ふけとしこ・山本敏倖)



竹岡一郎
烏蛇墓から墓へ伸び渡る
守銭奴がそちこちを灼く人いきれ
麦秋や画家の眼くはへ鴉は陽
貴き血吸つて山蛭まろく浮く
満員電車ホスピス掠め螢撒き
玉虫の重きに傾ぐあたしの死
一揆の徒退けば阿弥陀に灼かるると


木村オサム
風なんて食いたくねぇよ鯉幟
たよりない手品見終えてところてん
思い出せないがいい句だ昼寝覚
月涼ししづかに笑ふ鳥男
顔のない時間を進む蓮見舟


ふけとしこ
比良よりの水に沢蟹育ちたる
沢蟹の爪立てしまま流さるる
いつまでも見て赤腹の消えし水
守宮出づ琉球硝子の濃き青に
西表島眼の赤き蛾にも遇ひ


山本敏倖
美意識の刺中和する梅雨の蝶
羽抜鶏素数にようにカタルシス
わたくしを泳いでいます藪の中
かき氷遠い過去から声がする
神話への秘史をつづりし蝸牛

2023年10月21日土曜日

令和五年 夏興帖 第二(坂間恒子・杉山久子)



坂間恒子
空間の青無花果の受洗のいろ
無花果の葉陰に浮かぶ片えくぼ
白昼の鶏鳴あがる栗の花
昼の月からす揚羽の素手でくる
大仏の背中がひらく棄民の夏


杉山久子
派出所に届きし穴子よく動く
愚痴聴いてやる白玉の芯を噛み
白南風やこすると魔人出る指輪

2023年10月13日金曜日

令和五年 夏興帖 第一(仲寒蟬・辻村麻乃・仙田洋子)



仲寒蟬
夏草に地雷ラフマニノフの国
罪多き顔を映して蓮の水
切通抜け人間に戻る蛇
チャーチルの蕃茄ヒトラーの唐辛子
安土城礎石百十雲の峰
物欲の覚え初めは夜店なり
汗だか雨だか額から項から


辻村麻乃
すんすんと窓辺の豆苗夏日呑む 
水打てば板戸に影の動きけり
まひまひや出やうとしても戻さるる
階段の隙間にぐんと濃紫陽花
虚ろなる埴輪の眼窩虎が雨
紋黄揚羽懐いて低く翔びゐたる
四丁目異国の香水すれ違ふ


仙田洋子
百日紅ゐてほしき人ばかり死す
水打つや夫の亡き世にまだ生きて
死装束ぱつと広げしごと白夜
油蟬雲の過ぎゆくたび鳴けり
うすばかげろふ罪なきもののごとく飛び
夫の亡き誕生日なり水を打つ
納骨の決心つかず百日紅