水岩 瞳
この更地何がありしや街薄暑
じいばあの涙忘れそ沖縄忌
語り部の語らざること原爆忌
兵ひとり死んでも異常なしの朱夏
この新刊いつか古典に麦の秋
佐藤りえ
弾込めの指細からむ単帯
歩くより浮くのが早い水遊び
鳥立つて群れてゐるのも端居哉
筑紫磐井
お揃ひの夏帽子なりあかの他人
小諸にて虚子をたたへる夏講座
硝子戸の向こうに夏の海がある
眞矢ひろみ
蛍の夜闇より薄く老夫婦
旱星母犬の乳垂れ揃ふ
藍浴衣十万億土の端っこに
凋落の世や夕凪を授かりぬ
一掬の金魚は旅の目を持てり
渡邉美保
青野では魚の貌めくふたりかな
風景の隅つ子にある貝風鈴
清掃課去りたる後の草いきれ
網野月を
平均率は無理な数なり今朝の夏
白牡丹中華料理は好きですが
女王とはあたしのことよおほ牡丹
二の腕の水を弾いて夏はじめ
水茄子の刺身を食らふ島暮らし
秋口や色深くなる小さき葉葉
高橋比呂子
始原として多色刷りなり河口
炎昼のつれなき影や始原とす
晩夏かな塒の烏よ葡萄牙
旅人の喪失早熟のはまなす
紅い手鞠突いている睡蓮
みちのくの青葉違えず磊々峡
復興海岸岩壁津波高記夏果
鷲津誠次
手鏡に貧しき素顔桜桃忌
梅雨晴れ間家裁駆けゆくハイヒール
海の日や吾子の歯磨き念入りに
しばらくは会えぬ片恋夏休み
落雷やふいに鳴り止む黒電話
父の島に慟哭めくや油蝉
林雅樹(澤)
蛇の這ひ出づる空家の解体に
ブクオフに寄りて帰らむ夏の暮
汗ばつかかいてんじやねえちやんと舐めろ
冨岡和秀
アフリカの実存者来て人光る
不明の「それ」捉えれば我消滅す
思考神ウィトゲンシュタイン我が聖性
頁繰る指先はしる文字群霊
古神道みなもとに居るシャマニズム
岩塊に刻んで読みし阿毘達磨(
古インドのヨーガを極め昇天す
花尻万博
水からくり父だんだんに忘れてゆく
どこからを意味と仰つしやる喜雨休み
滝の水この世へと引き戻されて
今は今で他人となりて蕗を跨ぎ
藤枕頭でつかちご遠慮ください
蚊帳低し結び目一つ子に託し
走馬燈増えゆくいとこはとこにも
青木百舌鳥(『夏潮』)
田植機の拍子たかたか稲を植う
かなかなの声や呼応し退潮す
フェンネルが育つて咲いてピザの店
往来の風のぐちやぐちや熱帯夜
小沢麻結
男振りなり飛魚の流線形
海酸漿鳴らしたく浜去りがたく
黒塗りの車止まりぬ鮎の宿
浅沼 璞
歓声のかすかに届く夏座敷
絵簾のはためいてゐる不在かな
隙間から笑ひ返してくる裸
蟻の巣に群がるかゆみ上腕に
壁一面苔ぎりぎりに車体かな
兜虫うごくを素手でもち帰る
噴水の奥で懺悔をしてゐたり
望月士郎
にんげんの流れるプール昼の月
心臓は四部屋リビングに金魚
はんざきのまなうら飛行船がくる
火取虫あの世の片隅にこの世
転生の途中夜店をかいま見る
曾根 毅
どうしても傾いてくる冷房車
血管の浮き上がりたる青葉山
花菖蒲脚の先から消えかかり
神谷波
夕涼し川辺の杭にいつもの鳥
山々の輪郭ぼやけたる暑さ
地球沸騰宣言中の青田
枕辺の時計正確明易し
松下カロ
乗り換への多い切符の青海月
先をゆく少年の丈まくなぎほど
雲水の指のきれいな蝸牛
加藤知子
梅雨寒やロダンの男鼻をかむ
戦争に捕まっていくまいまい
獣肌が夕焼けるから戦争が
踊り子を物色ドガの箱庭へ
カノンロック少女白雨()感電す
岸本尚毅
梅雨深し水に映れる蜘蛛の糸
その墓の涼しく町の音遠く
野の百合が見えて大きな墓の百合
夏の雲何の煙突かは忘れ
町角に神を説きをり凌霄花
山の宿蠅少なくて大きくて
堀に蓮咲いて城主は佐竹様
小林かんな
父の日の保険会社のタオル干す
蛇見る子見ない子土手にもつれ合う
夏の雲金管楽器待機する
日焼して山羊を迎えにゆくところ
昼寝して声を忘れてきた子ども
瀬戸優理子
没頭の時計のゆがみ濃紫陽花
われわれを試すパセリの露悪趣味
絶交の青いハンカチ借りたまま
汗を拭き拭きいい人になるノルマ
ソーダフロート宇宙の話まで飛んで