2014年10月10日金曜日

平成二十六年夏興帖, 第七 最終回 (中西夕紀・太田うさぎ・原雅子・筑紫磐井・千倉由穂・浅津大雅・大藤聖菜・黒岩徳将・北川美美)




中西夕紀
昼顔のほとりに拾ひ船の板       
夜店の灯平家の海を淋しうす
寝る人の押してくるなり汗の肩


太田うさぎ
本郷の黒い金魚のやうな愛
空蟬の観念的な透け具合
ゼラチンがぷるんマリリン・モンロー忌


原雅子
行水のどこから洗ふ赤ん坊
八雲立つ出雲にそよぎ余り苗
涼しさに仏飯を下げ忘れたる


筑紫磐井
美美といふ編集長が夏惜しむ
   櫂未知子・奥坂まやさんへ
抱き合つて死んでゐるなり水中花
鎌倉にたましひの飛ぶ星のとぶ



【夏興帖・こもろ日盛俳句祭編】
千倉由穂(1991年生。「小熊座」所属。宮城県出身、東京都在住。)
 
雲の峰地球ができた日の話
駅前を出ればみんみん蝉の声
境内に大工頭の昼寝覚
木下闇祠に満ちてゆく者に
鬼やんま水の重さをたしかめり


浅津大雅(「ふらここ」) 
   
みづうみの底に日当たる涼しさよ
へびがみの棲んでゐたるや苔清水
死なすため金魚もらつて帰りけり



大藤聖菜
   
万緑や地層の隙間にも地層
夏木立チェロを背負った女性行く
穴城から町人見上げ夏柳
広島忌新しき墓古き墓
山々に日向と日陰土用かな


黒岩徳将

落ちんとす雫の白と風露草
あの雲を剥がさんとする蟻地獄
飲めさうな飲めなささうな清水かな
ずぶ濡れを笑ふ日傘を傘にして

   夜盛句会にて
置き手紙どんと支ふるトマトかな

北川美美
(夏興帖)
小満の土にまじりし乳歯かな
あいの風砂浜に杭打ち込めよ
この先に小屋と湖夕焼けぬ

(こもろ日盛俳句祭編)  
八月来小学生のジャズ一団
水道の水垂直に土用かな
逆光の重機までの径が夏