2014年10月31日金曜日

平成二十六年秋興帖,第三  (水岩瞳・花尻万博・小林かんな・堀田季何・坂間恒子・澤田和弥)





水岩瞳
京に飽く京のお人と雨月かな
夫がゐてハモニカを吹く夜長かな
台風の日より柴犬家に住む



花尻万博
色鳥や神樹の中を混み合へる
時化を追ふ耳鳥威紛れ鳴る
人の列生まれては消え霧の中
鳥威吾が身に岬透かすかな



小林かんな
蟷螂や今宵どちらの目も冴える
秋刀魚より吐き出されたる煙かな
隊商の荷の無花果はさめている



堀田季何(「澤」「吟遊」)
大海は大河拒まず鳥渡る
   「匈奴至秋馬肥弓勁」(漢書匈奴傳)
馬肥ゆは漢侵すため馬に乗る
蟋蟀は火の化身とや子も喰らふ
裂くるとは殖ゆることなり柘榴の実 
ガンダムは殺戮兵器白芒
あらかたの役は口パク村芝居
霧のなか霧にならねば息できず



坂間恒子(「豈」「遊牧」)
金泥の兎の耳が刈田より
真葛原たぐりよせたる光琳波
萩白し兎の耳を埋めにけり
鮫の美を紫式部に見る日かな
鶏頭花倒れ石室露わなり
吾亦紅毒のまわっている軀
昼の虫落ちぬ噴水我にあり



澤田和弥(「天為」「若狭」同人、「のいず」共同発行人)
家族皆カレーはインド秋うらら
枝豆にドラマなきほど不味き店
草の花上手な嘘を教師から
宮中に嫁ぐ夢持つ芋の秋
流星や父より小さき魔羅を持つ