佐藤りえ
遊ぶほどせつなし垂れる水洟や
風防に穴空いてゐる十二月
ランドリータグにコートの替へ釦
厚着して紙を配つてゐる仕事
抱きしめてやれぬストーブを点ける
筑紫磐井
柊がよく似合ふ 死は真っ盛り
寒いわと猫が言ひたり驚愕(びつくり)す
骨しゃぶるトホホと思ふ冬鴉
池田澄子
朝晩の寒さを嘆く元気かな
東京広し銀杏落葉を踏み滑り
凍晴や腕を回すと肩に音
こちらから見え裏窓の聖夜の灯
嘆き合い鍋のしらたき掬い合い
西村麒麟
金沢の見るべきは見て燗熱し
冬の雁お手玉ほどの手毬あり
北国の遊びをしたり雪女
モンゴルの北の方より毛皮売
昔からピアノがありぬ狩の宿
坂間恒子(「豈」「遊牧」同人)
文章に手触りのある十二月
天涯に言葉抜け行く枯葡萄
冬の星一直線に頭と尾骨
神谷 波
あつちへよつたりこつちへよつたり日短か
桜は葉落としつくして変な電話
どうしても伐らねばならず寒椿
竹岡一郎(「鷹」同人)
冬菜畑抱きて離宮晴れ渡る
帰り花降る外つ宮の小滝かな
山茶花が離宮の奥へいざなへり
川嶋ぱんだ(関西俳句会「ふらここ」、船団の会、甲南大学「( )俳句会」)
冬めいていよいよ偉大なる巨塔
風呂の中繋がっている冬の川
窓の雪目で追えないから目で追わない
外套や俺まだ離れる気はないし
絨毯の張られて硬き展示室
岡村知昭極月のにわとりの放し飼いかな
停戦の日ぞにわとりを飼いながら
にわとりによく言い聞かせ寒茜
髙勢祥子(「鬼」「街」所属)
肩歩く虫の速さや暖房車
冬の光がフォークの先に到るまで
永遠のマイノリティとして鯨
関悦史
かつんかつこつこここと落ちぬ聖樹の玉
古本とガラスに映り日短か
YouTubeの霜夜のやすしきよしかな
木田智美(関西俳句会「ふらここ」)
手袋やコロッケ香る弁当屋
髪結ぶリボンの紺やクリスマス
海外のニュースの河馬が泣いていた
冬林檎体温持てる口内炎
雪だるまネオンの街の真ん中に
安岡麻佑(関西俳句会「ふらここ」所属)
たい焼きを割つて返事の代はりとす
坂登りきれば異国や凩す
手のひらに潰されさうな兎かな
浅沼 璞壁どんの壁抜けにけり冬景色
道沿ひの川とつぷりと冬暮れて
踝の深さの冬の川恐ろし
傘浅く差しかけてくる雪女
寒紅の薄ら笑ひの柄漏れ傘
瀬越 悠矢
運命論よそに綿虫風のなか
着ぶくれて人集ひたる地下劇場
手の甲に大き癖字や日記買ふ
山下舞子(「ふらここ」)
風花や文字に角度をつけてみる
ダイヤモンドダストホットミルクティー
幼子の高さの鹿の冴ゆるなり
言いそびれては蜜柑割く蜜柑割く
揺れるものピアス土鍋の煮え豆腐
仲寒蝉
地下鉄の車輪に火花神の旅
遠火事や母の背中のぬくみほど
終着駅とは木枯の始発駅
振り返り振り返りつつ冬眠へ
CDにB面はなし初氷
列車みな屋根見せてをり冬満月
味噌汁の豆腐だけ食ふ漱石忌
堀田季何(「澤」「吟遊」)
木枯に手を入れつかむ木の葉かな
蒼天を統べて皇帝ダリアかな
石段のはては祭壇冬銀河
一九三八年一一月九日深夜
水晶の夜映写機は砕けたか
初雪や一生に吐く息の数
ブラジャーのホック外せば白鳥が
ふけとしこ
水仙や江口の君へ通はむと
木菟が貌突き出して飛んでくる
枯葦へしかと食い込み鳥の爪