2015年10月16日金曜日

平成二十七年秋興帖 第五 (内村恭子・小林かんな・石童庵・陽 美保子・堀田季何・小沢麻結)



内村恭子 (「天為」同人)
秋ともし壁をはみ出す天使像
法王が眼鏡を買ひに秋うらら
秋光の差し込む中庭の木椅子
要塞の獅子老いにけり霧の夜
秋空のいつもどこかに羽音して



小林かんな
朝の陽を背中に立ち上がる鹿は
うっとりと日に当たりつつけむり茸
秋光のところどころで手をつなぐ
ふもとには露草ひらく火口かな
とちゅうまで秋の燕と同じ道



石童庵
閑けさや草葉隠れに鹿威
分け入つても分け入つても茸無く
遅れじと水戸は皆死すすいつちよん



陽 美保子(「泉」同人)
吾亦紅みんな帰つてしまひけり
秋風や立てて血を抜く青魚
一幹を蔓固巻きに猟期来



堀田季何(澤)
豊年や光の兵器設計図
アーリントン国立墓地を穴惑
星月夜水漬く屍のかさなれり



小沢麻結
秋燕湖面を打ちて光蒔く
身に沁むや記録の中に予知夢あり
実紫彼女は俳句始むるか