2016年1月29日金曜日

平成二十八年歳旦帖 第二  (堀本 吟・渡邉美保・林雅樹・小野裕三・ふけとしこ・木村オサム)



堀本 吟
初風や明日香猿石目口耳
猩猩蓬髪ひとすじの道うねるあやうし
またも読む相互扶助論犬と猿



渡邉美保
初凪や文旦の木に文旦が
御鏡や日の差す朝のストレッチ
田平子に叡山の水流れ来る



林雅樹 (澤)
憧れの俳人宅や輪飾盗る
初詣に燥ぐ地元のグループが
雨やみて土の匂ひや初詣
よく吠ゆる隣家の犬や姫始め
復縁を迫る元妻血の正月




小野裕三 (海程・豆の木)
端々の少し明るくお元日
パーキングの奥に連なる墓地に初日
会館の朝の匂いの七日かな
人日の煙の外に肉親住む
もろもろを掲げる大根まつりかな



ふけとしこ
初夢の肩肘張つて覚めにけり
海鼠壁に剥がるるところ初鴉
鴨鍋へ座る錆朱の重ね衿 

 


木村オサム (「玄鳥」)
ぽっぺんや誰も知らない島生まる
岩礁にのたうつ人魚初明り
人日の臍の奥から海を見る

2016年1月22日金曜日

平成二十八年歳旦帖 第一 (もてきまり・小林かんな・堀田季何・杉山久子・曾根 毅・夏木久)


もてきまり
一人居の浮雲気分去年今年
擦寄りし倦怠の猫大晦日
つまりその草石蚕ほどの病あり



小林かんな
催馬楽の背中に乗って初雀 
髪留を直す破魔矢を預けては
あらたまの嘴天へひらきけり



堀田季何(澤)
ぐちよぐちよにふつとぶからだこぞことし
初鴉沈黙す影失ひて
双六や道外れても道の上



杉山久子
初凪へジャージのライン蛍光す
双六のジブラルタルを渡りをり
ブルーインクの言葉満ちゆく淑気かな



曾根 毅(「LOTUS」同人)
風の中山を削りて年用意
初茜仮設住居を覆し
三の糸その儚さを初鏡



夏木久
コンセントに埃のたまり出埃及記     
そのノブを回せば春に違ひなし
裏漉しをして晴れやかに冬の影
ロボットに替はれる神が宝船
迷宮を眺めてをれば冬花火
初雪や地球人と酌み交はす
影広げもつと光を春隣

平成二十七年冬興帖 第九 (竹岡一郎・田中葉月)




竹岡一郎(鷹)
ネットカフェ毛布の奥の眼の赫赫
ねつとりと毛布したたる四肢ひらく
鯛焼やテキ屋おだやかなる仕草



田中葉月
この辺り鳥獣戯画のクリスマス
水仙花もうにんげんにもどれない
月光をあつめてとほす針の穴

2016年1月15日金曜日

平成二十七年冬興帖 第八 (真矢ひろみ・堀田季何・小沢麻結・筑紫磐井)



真矢ひろみ 
極月の女衒にまぎれ行かむとす
歌舞伎町悴む白き指の反り
聖夜かな球体関節軋みをり
義体にも微熱かむなぎ凍る夜
地の果てや白き聖歌の少年兵



堀田季何(澤)
神は留守いえ最初から不在です
襟巻と目覚めてみれば安特堤
浮寝鳥といふ白河夜船かな



小沢麻結
落とさじと挟む菜虫の置きどころ 
冬至湯の手縫優しき柚子袋
羽子板市寒々と見て人去ぬる




筑紫磐井
少し死んでゐる魚を買ふ十二月
夢に見し日本橋なり雪が降る
老人性鬱の冬靄にも朝日
うつとりと吸はれてみたし雪女郎




2016年1月8日金曜日

平成二十七年冬興帖 第七 (神谷波・仲寒蟬・岡田由季・小林苑を・福田葉子・浅沼 璞)



神谷波 
十一月海月のごとく過ぎゆけり
ねつとりと枯蟷螂の視線かな
隣席はどちらも他人日短か
凍て雲が猟銃の音撥ね返す
狙はれて鴨は声なく落ちてくる



仲寒蟬
しぐるるや橋の向かうは見知らぬ村
誰も来て影おいてゆく冬泉
手袋の出口さがして薬指
海鼠より海鼠の思ひあふれ出す
枯蓮や空の半分晴れてゐて



岡田由季(炎環・豆の木)
北風や鏡面何も受け入れず 
コーランの一字も読めず帰り花
雪眼鏡かけたつぷりと雪を見る 



小林苑を
クリスマスツリー淋しい犬通る
冬銀河濃し国境は越えられる
落とし蓋して大根のぐらぐらす



福田葉子
月光へ父の目うるむ憂国忌
冬めくカフェ ゴッホの星の瞬きて
昭和平成生きて霜夜の実母散



浅沼 璞
脇さむき女力士の土俵際
落ちませぬ小春太夫が自家発電
暁の反吐は拙者か寒鴉
若年性痴呆空白古日記





2016年1月1日金曜日

平成二十七年冬興帖 第六 (花尻万博・水岩瞳・下坂速穂・岬光世・依光正樹・依光陽子・飯田冬眞)



花尻万博
西で待つ猟の犬かも赤いタイル
相撲取る狸凭れる水屋かな
口承の海鼠は動く道標
木枯しや鉄に系譜の沈みゆく
万両を数へて舐(ねぶ)る網引きかな


水岩瞳
十二月八日来し方を問ふ写真
漱石の顔の痘痕や昼の火事
ペーチカのうた歌ひだす一人の夜
ごみ袋あさるプラトン寒鴉
宇宙にも限りあるとは寒昴


下坂速穂(「クンツァイト」「屋根」)
湯気立てて死も長生も楽しからむ
鳥声のきりきりと澄むレノンの忌
枝の火色は冬の鳥さう思ふ


岬光世 (「クンツァイト」「翡翠」)
道を行く肩の掠れる干蒲団
浅草かポインセチアと珈琲と
大臼の古き音立て餅を搗く


依光正樹 (「クンツァイト」主宰・「屋根」)
あのころの母が通りし障子かな
灯もなくてほの明るさの浮寝鳥
にほどりの出づる水面を見つめたる


依光陽子 (「クンツァイト」「ku+」「屋根」)
それぞれの手の生む文字や冬めきぬ
裏庭にふさはしき木と埋火と
遥けさの綿虫見ゆる日をここに


飯田冬眞(「豈」「未来図」)
酉の市夢売りさばく声濁り
落語家の声に艶あり小六月
プロテイン飲み始めたる憂国忌
北風や膨らみ始む烏賊の耳
紙パック潰す左手火の用心