2016年1月1日金曜日

平成二十七年冬興帖 第六 (花尻万博・水岩瞳・下坂速穂・岬光世・依光正樹・依光陽子・飯田冬眞)



花尻万博
西で待つ猟の犬かも赤いタイル
相撲取る狸凭れる水屋かな
口承の海鼠は動く道標
木枯しや鉄に系譜の沈みゆく
万両を数へて舐(ねぶ)る網引きかな


水岩瞳
十二月八日来し方を問ふ写真
漱石の顔の痘痕や昼の火事
ペーチカのうた歌ひだす一人の夜
ごみ袋あさるプラトン寒鴉
宇宙にも限りあるとは寒昴


下坂速穂(「クンツァイト」「屋根」)
湯気立てて死も長生も楽しからむ
鳥声のきりきりと澄むレノンの忌
枝の火色は冬の鳥さう思ふ


岬光世 (「クンツァイト」「翡翠」)
道を行く肩の掠れる干蒲団
浅草かポインセチアと珈琲と
大臼の古き音立て餅を搗く


依光正樹 (「クンツァイト」主宰・「屋根」)
あのころの母が通りし障子かな
灯もなくてほの明るさの浮寝鳥
にほどりの出づる水面を見つめたる


依光陽子 (「クンツァイト」「ku+」「屋根」)
それぞれの手の生む文字や冬めきぬ
裏庭にふさはしき木と埋火と
遥けさの綿虫見ゆる日をここに


飯田冬眞(「豈」「未来図」)
酉の市夢売りさばく声濁り
落語家の声に艶あり小六月
プロテイン飲み始めたる憂国忌
北風や膨らみ始む烏賊の耳
紙パック潰す左手火の用心