花尻万博西で待つ猟の犬かも赤いタイル
相撲取る狸凭れる水屋かな
口承の海鼠は動く道標
木枯しや鉄に系譜の沈みゆく
万両を数へて舐(ねぶ)る網引きかな
水岩瞳十二月八日来し方を問ふ写真
漱石の顔の痘痕や昼の火事
ペーチカのうた歌ひだす一人の夜
ごみ袋あさるプラトン寒鴉
宇宙にも限りあるとは寒昴
下坂速穂(「クンツァイト」「屋根」)湯気立てて死も長生も楽しからむ
鳥声のきりきりと澄むレノンの忌
枝の火色は冬の鳥さう思ふ
岬光世 (「クンツァイト」「翡翠」)道を行く肩の掠れる干蒲団
浅草かポインセチアと珈琲と
大臼の古き音立て餅を搗く
依光正樹 (「クンツァイト」主宰・「屋根」)あのころの母が通りし障子かな
灯もなくてほの明るさの浮寝鳥
にほどりの出づる水面を見つめたる
依光陽子 (「クンツァイト」「ku+」「屋根」)それぞれの手の生む文字や冬めきぬ
裏庭にふさはしき木と埋火と
遥けさの綿虫見ゆる日をここに
飯田冬眞(「豈」「未来図」)酉の市夢売りさばく声濁り
落語家の声に艶あり小六月
プロテイン飲み始めたる憂国忌
北風や膨らみ始む烏賊の耳
紙パック潰す左手火の用心