2016年1月8日金曜日

平成二十七年冬興帖 第七 (神谷波・仲寒蟬・岡田由季・小林苑を・福田葉子・浅沼 璞)



神谷波 
十一月海月のごとく過ぎゆけり
ねつとりと枯蟷螂の視線かな
隣席はどちらも他人日短か
凍て雲が猟銃の音撥ね返す
狙はれて鴨は声なく落ちてくる



仲寒蟬
しぐるるや橋の向かうは見知らぬ村
誰も来て影おいてゆく冬泉
手袋の出口さがして薬指
海鼠より海鼠の思ひあふれ出す
枯蓮や空の半分晴れてゐて



岡田由季(炎環・豆の木)
北風や鏡面何も受け入れず 
コーランの一字も読めず帰り花
雪眼鏡かけたつぷりと雪を見る 



小林苑を
クリスマスツリー淋しい犬通る
冬銀河濃し国境は越えられる
落とし蓋して大根のぐらぐらす



福田葉子
月光へ父の目うるむ憂国忌
冬めくカフェ ゴッホの星の瞬きて
昭和平成生きて霜夜の実母散



浅沼 璞
脇さむき女力士の土俵際
落ちませぬ小春太夫が自家発電
暁の反吐は拙者か寒鴉
若年性痴呆空白古日記