2016年10月28日金曜日

平成二十八年 合併夏・秋興帖 第八  (ふけとしこ・山本敏倖・林雅樹・望月士郎)



ふけとしこ
夜を啼く鴉に星の流れけり
邯鄲に酔の足らざる耳貸して
蚯蚓鳴く石鹸に薔薇彫り出せば



山本敏倖(豈・山河代表)
水打って路地を切り絵の江戸にする
空蟬になる瞬間の点火音
まぜらんとまーまれーどとまんぼうと
隣人は銀河の向う一の矢放つ
人間白書鏡の中は蟲の闇
鰯雲話の続きは注射する
鬼やんま旅していたり嵯峨野まで
切り株の中心にある霧の音


林雅樹(澤)
蚊遣火や怪談「勃起する死体」
デモ隊に神の小便たる夕立
エロ本自販機アルミ透けくる夏の暮
ダビデ像まねて逮捕や法師蝉
義父の目の追ひ来る白膠木紅葉かな
路上にて別れ話や夜学の灯



望月士郎
コインロッカーの中ひとつずつ蛇の衣
しろさるすべり町が私を忘れてた
夜店の灯覗く少年セルロイド
たそがれて鬼灯市の妊るよ
無口な奴だな西瓜切ってやる
虫の闇ぽつんとベッド浮かべてる
夜は小声の黒衣がいます曼珠沙華
逆上がりもう一度して蛇穴へ