2017年6月16日金曜日

平成二十九年 春興帖 第九(下坂速穂・岬光世・依光正樹・依光陽子・真矢ひろみ・西村麒麟・望月士郎)



下坂速穂(「クンツァイト」「秀」)
そこにゐて手に来ぬ鳥よ鳥雲に
猫といふ姿形の春愁
花冷の狐憑きとはこんな顔


岬光世(「クンツァイト」「翡翠」)
案内する袖のさみどり百千鳥
をんな来て白蒲公英の気やすさよ
再会の桜や硬派なりし人


依光正樹(「クンツァイト」)
水鳥の数ある垣を繕ひぬ
大寺や水輪と見れば春の雪
高きまで鈴を鳴らして春岬


依光陽子(「クンツァイト」)
森のしづか水のしづかを抱卵期
苗札を立てて眠つてゐる土で
初蝶と指してしばらく無二の蝶


真矢ひろみ
末黒野に始まる宙の真澄かな
春の宵おひねりが飛ぶ空爆も
彼岸へと直線貸方命借方桜
光年の揺らぎの果てに春の虹
蹴り正す花烏賊の頭を西向きに 
雁風呂や夕日の浜を入れて焚く
花のままでゐる唇を読み違へ


西村麒麟
鶯やもの売る人として我等
口の先すぼめて亀の鳴きにけり
鳥の死を哀しむ川や朝桜
黒柿の重き座卓や花の宿
蜷の道詰まらなさうに曲がりけり


望月士郎
余寒なお背骨を通り過ぐ夜汽車
ノックする人差指の骨きさらぎ
雛壇の男女関係かんがえる
六年後の背中に風船売の来る
春の蛇巻尺の端もってくれ
明日あたり白鳥帰る風 鎖骨
ミモザ揺れ生まれる前にいた港