2017年6月9日金曜日

平成二十九年 春興帖 第八(羽村美和子・渕上信子・関根誠子・岸本尚毅・小野裕三・山本敏倖・五島高資)



羽村美和子(「豈」「WA」「連衆」)
啓蟄のアラビア文字が笑いだす
花辛夷空は剥落し続けて
風葬の風のはじまり根白草
ヒヤシンス す・さす・しむとは使役
沈丁花どこまで香りか秘密か


渕上信子
スカイツリーの土筆の空よ
玻璃戸のむかう二月輝く
恋猫のごと恋せしことも
花冷に来て御座なりのハグ
逃水のさき蕪村すたすた
終末時計すすむ春昼
入社式挨拶はAI


関根誠子
春昼やウメノキゴケの密かなる
真砂女大師ホワイトデーをわたくしす
花を待つ心くさめとなりにけり
花曇とろり渦巻く池の面
飛花落花大声あげてゐる虚空


岸本尚毅
漂ふが如き寒さや蝌蚪を見る
春雨の今日いくたびの雨あがり
雨ながらものの芽遠く見ゆるかな
あたたかや石をへだてて違ふ苔
白木蓮眺めて辛夷なつかしく
梅ほどの白さの花を初桜
花は過ぎ新川崎の駅も古り


小野裕三
春に目眩む沖に客船都市に愛
サーカス団つやつや並ぶ木の芽雨
紋章の麗らかなれば町に住む


山本敏倖(山河代表・豈)
連翹の左心房なら別冊
花びらを踏まないように調律す
感触は海市一の糸からまる
天球の一片に挿す黄水仙
蛇行してこの世に辿り着くつつじ


五島高資
蛇口から水のふくらむ二月かな
涅槃図を洩れたる影を拾ひけり
腹の底から吐ききつて二月尽
朝へ出る道のうねりや竹の秋
水を送るのみの橋あり春の雨
爪先を回してゐたり春の闇
槌音の木霊や霞む室根山