2017年6月23日金曜日

平成二十九年 春興帖 第十(水岩瞳・北川美美・早瀬恵子・小沢麻結・佐藤りえ・筑紫磐井)



水岩瞳
薄氷をすべて割りますランドセル
鞦韆を山へ空へと擲てり
蒲公英に有刺鉄線内と外


北川美美 
春遅々と黒く濡れたる犬の鼻
Nirvarna(n+1)倍の雨
華麗なる鬱という文字桃の花


早瀬恵子(同人誌「豈」)
八寸の皿に峰あり春席膳
咲き立てる荷風かばんに鬱金香
禁教下親指聖母愁う春


小沢麻結
花びらのひとひらとなきチューリップ
花冷や出来立てを買ふあぶり餅
運の良き人にあやかり雛あられ


佐藤りえ
花闇に蓄光塗料の指の痕
盗賊A盗賊Bと風下へ
アントニーからウイルス削除の小鳥来る
散つてなほ桜を辞めぬ桜かな


筑紫磐井
訪問着 春の虚子庵にどれ着やうか
さみどりの系に閉ぢこめうぐひす抄
台東や猫のつそりと恋にあるく
鶯餅十人並みは不思議な顔