2017年9月1日金曜日

平成二十九年 夏興帖 第一(仙田洋子・杉山久子・仲寒蟬・望月士郎・内村恭子・松下カロ)



仙田洋子
さびしさのはじまりの白さるすべり
いつまでの後半生や水中花
阿弖流為の霊を鎮めて蟬時雨
見つめられすぎて琉金あつち向く
熱帯魚めまひしさうな数となる
迷惑よ明るすぎたる向日葵は
時計草昔の住所うつくしく


杉山久子
アライグマ生息地図や明易し
ががんぼのせまる洛中洛外図
防災機器管理課長の足に蟻


仲寒蟬
きつかけはただ一匹の蟻なれど
山三つかけ持ちにしてほととぎす
灯台の閂として黒揚羽
ちりちりと火の回りたる毛虫かな
虫捕りの極意や一子相伝の
地下室のサンドバッグや明易き
交代の車掌の頬へ夏の月


望月士郎
地下街に噴水見てた変声期
再会や握手の真ん中に金魚
オルゴールの中にさびしい甲虫
夏は幼女の九九が聞こえる二人が死
ずーっとひまわり原爆ドーム何個分


内村恭子
世紀末の重さの鍵や風死して
夏の果骨董市にバンドネオン
旅情とは夕焼の路地とピアソラと
白服の男ばかりの酒場なり
ラプラタの河口に銀の夏の月
革命の街に噴水高々と
薔薇絶ゆることなしエビータの墓碑に


松下カロ
フィレンツェの聖母子永遠(とは)に滴れり
パンナイフへなへなとして雲の峰
ハンカチに包みそのまま忘れけり
ジェット機が近づいて来る百合の茎