2017年9月15日金曜日

平成二十九年 夏興帖 第三(椿屋実梛・浅沼 璞・堀本吟・岸本尚毅・石童庵・高橋比呂子)



椿屋実梛
きまぐれに京都まできて祭髪
八朔の花街に咲く京ことば
白粉の香がとほり過ぐ舞妓過ぐ
先斗町蛇の目の日傘前をゆく
普段着の浴衣で舞妓路地をゆく
舞妓の名ずらりと壁に花団扇


浅沼 璞
爪に苔咲くかに苔をとぎゐたる
蜥蜴ぺしやんこ見下ろせる峠道
梅雨鯰いびきも紫に染まり


堀本吟
 (晩夏の鬱)
青すすきうす紙をはぐ夜明け色
カルピスをうすめてマンホールに注ぐ
金箔は晩夏の鬱の憂さ鬱(ふさ)ぐ


岸本尚毅
梅雨にして秋のやうなる園淋し
一面のまだらの雲や茅の輪立つ
冷し飴売りて無学を誇るなり
一人棲む裸の人や釣忍
風鈴や八畳の間に我一人
半裂に見えず半裂しか居らず
ペンキ濡れば又新しや避暑の宿


石童庵
ジプシーの汗は働く汗ならず
泥棒が稼業の民の汗臭ふ
ナポリ見て死ぬ気さらさら羽抜鶏
炎天下人の苦悶の虚(うろ)残る
オリーブ稔る村やジュゼッペ・シモネッタ


高橋比呂子
処暑きたりおおきな蔵にまどひとつ
まつことはうとうやすかた白露めく
下北に処暑きたりて避雷針
処暑たのし言問団子ひとつあり
立秋やおおきな泪つるしたり