2017年9月22日金曜日

平成二十九年 夏興帖 第四(渡邉美保・渕上信子・五島高資・坂間恒子・前北かおる・辻村麻乃)



渡邉美保
地ビールや黄昏どきの鶏の皮
あめゆあります三条油小路町
乱反射して川面より夏深む


渕上信子
かたつむり足跡の銀色
薔薇薔薇苑を食みだして咲く
孳尾みしままに蟬乾きをり
蠅集る死に近づけば増え
紙魚は太りぬ『野火』に『俘虜記』に
真面目になれば八月は無季
夏帽子鸚哥が「アホンダラ!」


五島高資
みどりから青へみちのく深まれり
五次元の寄せるみぎはや時計草
明星の微笑み返す蓮の花
夏草や貨車は傾きつつ曲がる
舟虫を散らせし人の影となる
富士山の艫綱を解く夕焼かな
筑波嶺やムー大陸の青岬


坂間恒子
炎天の地を擦る縄のあそびかな
闇よりもさきに夕顔となっており
踝にきく夕顔の息遣い


前北かおる(夏潮)
夜の秋火の衰へを見守りて
段ボール燃やしキャンプの朝かな
朝蝉やよろしくぬるき露天風呂


辻村麻乃
緊縛の観音転がる夏の果
パードレの如き男と夏の山
腕中にぐるり湿布の金魚売
一匹の一匹を追ふ金魚かな
手際良き夜店の香具師や手に黒子