2017年9月8日金曜日

平成二十九年 夏興帖 第二(夏木久・網野月を・花尻万博・ふけとしこ・曾根 毅・加藤知子)



夏木久
構造的欠陥のまま走り梅雨
助動詞の初動捜査を間違へり
黍嵐次の選挙をざわつける
向日葵な立往生の噂立つ
モンスーン放送局を妄想す
八月の霊は幽かでをれぬなり
熱帯夜パセリな夢を抱きしめて


網野月を
免許証に別人の顔道おしえ
土用鰻火災報知器点いたまま
ボルダリングすれば守宮の心かな
GよG来世はきっとカブトムシ
板襖越しの人声麦こがし
空色の海海色の空夏一つ
夏果てて掴む乳房に故郷を


花尻万博
蟻渡る光の川の小さい傷
黄泉の水上りし紫蘇を思ひ出す
繋がれて昼顔といふ確かさよ
飛ぶ鳥の夜明けてゆけり茄子の花
灯取虫光と翳る身を晒して
木の国の支柱を青蔦として探し


ふけとしこ
万華鏡へ入れるとすればこの金魚
明星山三室戸寺なる蜂蝉鐘
八時十五分夾竹桃もサルビアも


曾根 毅
滑莧海より遠く在りしかな
青葉闇土偶の孔と繋がれり
しみじみと蛍を抜けて来たるかな


加藤知子
夏兆す大河に仮眠ありにけり
水中花睡眠障害症候群
定家かずら雲水美僧についてゆく
炎天として震洋艇とすれ違う
行水やさよならだけが祖国愛