2019年3月8日金曜日

平成三十年 冬興帖 第九(網野月を・小沢麻結・坂間恒子・佐藤りえ・筑紫磐井)



網野月を
冬日受く帝国ホテルのゴンドラ
増す光荒男の背に芝枯れる
頃合いに沢庵石を取り換えて
朝に晩に風呂上りにひび薬
冬休み自由であるを強制す
大寒や家鳴り下の方からも
手入れして魚眼広角春を待つ


小沢麻結
遠雷は再び呼ばず冬薔薇
銀行にかつて算盤膝毛布
鉄砲洲東百閒雪もよひ


坂間恒子
裸木にあまたの触手水かげろう
冬蝶に傷サンダカン作家死す
砲弾のごとくみがかれ冬の鯉


佐藤りえ
蒲団着てコスモロジーを読み耽る
枯園へ埋めた死体を確かめに
変拍子いよいよずれて冴ゆるかな
小石川二丁目汚すぼたん雪


筑紫磐井
焼芋を讃ふすべての税引後
知育・食育衰へて冬没日
開戦記念日よくなつてゆく痔のゆくへ