仲寒蟬冬耕や是より東武田領
焼藷屋魔人のごとく湯気の中
海苔焙る手の皺と海苔交互に見る
阿吽なるあくびとくさめひと部屋に
山襞のやけにくつきり室の花
小春日や母の繰り言ひたすら聞く
討入の日の錆びつきし蝶番
小野裕三エジソンの瞳の青き文化の日
飼いならすように寒紅引きにけり
先回りして狐火に囁けり
それぞれに前のめりなる聖歌隊
牛飼いと牛飼いの子の聖夜かな
渡邉美保極月やメタセコイアの金茶降る
遅刻者の火事を見てきし貌であり
子狐の灯す狐火仄白く
望月士郎月凍てて少女水銀体温計
ふっと風花そっと帰り花きっと
柩の窓こんなにきれい寒銀河
行きすぎて平目を買って戻りすぎ
白息の白犬がゆく年の果て
飯田冬眞神の留守漏刻の夜の狂ひ出す
かさぶたの色持つ廃車冬夕焼
茶の花や寝所をともす灯の低く
夕暮は風の要塞枇杷の花
冬の鵙銀鼠の空かきむしる
打消しで始まる人と根深汁
冬の月流沙河に詩の崩れゆく
早瀬恵子雪だるまワンツー天下の園デビュー
アカペラのドッペルカノンにペチカ燃ゆ
大年のウィンク・ウィン明日また
【歳旦帖】
浅沼 璞天井は嫁が君かやかたかたと
ころがる棒へさす初茜
花と月あまねく描く筆致にて
渕上信子嫁が君研究棟の夜
徹夜明なる初日眩しき
差し入れ嬉し喰積にハム
挨拶するや春着の秘書と
破魔矢ぶらさげ友の来訪
年賀のメール豪州は夏
D論仕上げ人日の空
松下カロホフマンスタール黒豆煮えるまで
冬薔薇リルケ寡黙で貧血で
オクタビオ・パス新年はフリーパス
望月士郎魂をひとつてんてん手毬かな
ちょうろぎは雪兎には使わない
はらからの集いはららご食べている
加藤知子初夢の女体掘り出す土器須恵器
塩抜きの足りぬ数の子ピノコのP
参考に頬の赤らむ寒の菊
関悦史初日さす糞尿五輪の税責めの
アストルフォを語られてをり初電話
元日の国道の辺の供花を見たり
「男の娘かるた」全画像拾ふ二日かな
五十億年先の初日を待ちながら