渡邉美保ローズマリーの花に月光降りてくる
鶏頭の種集まってくる夕べ
小蜜柑草の実の色づきも豊の秋
真矢ひろみ異界への予鈴はそぞろ鉦叩
若衆のうなじに解夏の風まとも
夕ひぐらしわかってくれない生きづらい
涅槃図の余白秋水溢れをり
我が膝に乗る蟋蟀の方違え
竹岡一郎雁瘡が聖の顔となりて説く
鯖雲を嗅ぐとき鼻孔大いなる
蝗積む踏切前の佃煮屋
瓢箪を吊るは非情の日射し溜む
木犀の夜や詰襟を喪ひし
幽かにも門扉よ鹿に導かれ
虫しぐれ
前北かおる(夏潮)大いなる嵐の過ぎし小鳥かな
露草に嵐の痕のあたらしく
野分よりこのかた滝の音絶えて
小沢麻結シテはけふ人待つ女秋澄めり
秋風や覚えなき人より封書
魂迎ふ海岸通り一丁目
下坂速穂ふたりしてきのふも見たる月を見て
似て非なる黄色の花と女郎花
人懐つこく蜻蛉の来ることも
岬光世爽籟や正座の長き剣道着
二輪車を丹念に拭き秋高し
秋の径雨はしづかに唐突に
依光正樹むらさきのものをまとひて施餓鬼棚
秋の蝉遠く感じてものを書き
吉日を殊に気にして生身魂
ゴム跳びのころの思ひ出秋風に
依光陽子台風を兆す小雨や東京湾
秋麗や時間を言ふに秒までも
夕かけて鉦叩鳴くほとりかな
紅葉且つ散る音を追ふ色を追ふ
仙田洋子鳥居にもぺこりとお辞儀七五三
玉砂利を摑みて投げて七五三
千歳飴さげてだらだら歩きの子
天蓋の如き神木神の留守
冬座敷浄土の如く山光り
独逸語に疲れ鍋焼饂飩でも
くらきへと狐火の流るるやうに
渕上信子鈍感力で凌ぐ八月
酔ひて歌ひてあッ流れ星
彼岸といへどこの銀河系
豚のソテーにてんじやうまもり
後悔しつつ木賊刈りをり
もみぢ山「火気厳禁」の札
門燈ふいに点く蟲の道
水岩瞳カンナ燃ゆ丘に砲台かつてあり
蟻を見る子ども見てゐる九月かな
いづれの御時にかあきめく授業かな
メンテナンスせずにもう秋人恋し
満月や二重否定は肯定す