2020年1月24日金曜日

令和元年 冬興帖 第四/令和二年 歳旦帖 第三(岸本尚毅・下坂速穂・岬光世・依光正樹・依光陽子・竹岡一郎・妹尾健太郎・坂間恒子・大井恒行・仙田洋子・山本敏倖・堀本 吟)

【冬興帖】
岸本尚毅
団栗と蜷と見分けて冬の水
ひつぱられ今川焼は湯気漏らす
玉子酒なまぐさければなぐさまず
数へ日や昼のカラオケ野に聞こえ
永久に留守冬の風鈴ぶら下げて
風よりも小鳥に揺れて枯るるもの


下坂速穂
コンビニの人とは話すマスクかな
猫に髯人に髭あり根深汁
冬の木に人に未完の物語


岬光世
狭き路地狭くかたづけお酉さま
足首の若きを廻し日向ぼこ
立ちしまま枯野の中に水を飲む


依光正樹
冬ざれを行けば秋桜子と波郷
朝ごとの露に親しき帰り花
淋しくもなくて独りの帰り花
あとついて歩くてふこと耳袋


依光陽子
水鳥のこころ水なき街をゆき
刈萱の枯れて谷中の咖喱店
小春日やなんぼでもよしと値つけて
翌る年ひらく莟よ冬構


竹岡一郎
木菟の羽搏きに護符搔き分くる
狩る我は水鏡にも映らない
大き胃を割けば熊あり半ば溶け
僧形や霜置く牙を踏みしめて
大鷲や目玉くわへて聖山へ
黒帝が声無き口を開き切る
熊の掌を煮て弦月は三日月に


妹尾健太郎
時空間もつ湯湯婆の内と外
火事場から場を移したら馬鹿力
九重の天守の上の冬菫
温恩怨をんなの音を雪女
片手鍋より煮凝り滑り出す宇宙


【歳旦帖】
坂間恒子
数え日のロダンの首を思いけり
黒ジャージの少年かたまる大晦日
羊飼いの少年初夢はひつじ


大井恒行
嫁が君つぼうちねんてんアンパンマン
われ子年ねんてんは猿アンパンマン
初日かな知恵ある鳥を慰まず


仙田洋子
いそいそと羽子板市をひとめぐり
朝より羽子板市のよく濡るる
遊び女の売らるる如し羽子板市
吉徳の小さき店や年の市
柚子風呂の匂ひどの家からとなく
新玉やくろがねの如隅田川
東の空をまづ見て二日かな


山本敏倖
水平の世を水平に除夜の鐘
大年や水の器を用意する
広島への道のりにあるお雑煮
人類の戦なき世を読初む
嫁が君次の客間で婚の声


堀本 吟
子ねずみの初齧りかな宇宙卵
家猫をいじり窮鼠と気づかせぬ
駆けおりてゆくバベルの塔鼠算
かがようて篝火草のまたひらく
ヒヤシンス耳奥に声のとどくまで