小林かんな前を行く人のリュックの秋日かな
弁当を河原の上に解く照葉
竿で押す紅葉の映る川の底
乗ってすぐ降りる渡船や石叩き
紅葉山滝はいくどか折れながら
加藤知子りんご剥くごと金属探知機の触る
塹壕の深堀林檎湿らせる
唇を切り獣の笛の音楽会
腐りかけのりんご断面見せて舞え
林檎端正に置かれてもはや林檎じゃない
網野月を爪先で食べ尽くさんと柿落葉
立ち上がる海原睨む石蕗の花
白菜や名無き料理をアルマイト
眠れない呪禁の夢を花八手
欅紅葉地獄にしても温過ぎる
初霜や小鳥のように生きてみる
高くはないが深い空堀返り花
早瀬恵子秋夕べ新書解体オークション
白秋や恋する本のらんらんと
月明り片口に盛る天女舞
中村猛虎子規の忌の三角関数溢れ出す
攫われる肩車の子十三夜
カトマンズに人焼く匂い夜長し
亡骸を洗うガンジス紅黄草
鶏頭花方位磁石は黄泉を指す
男根を祀る神社に色鳥来
のどか黒鍵のエチュード転び色鳥来
御陵を守る鍵穴鵙猛る
霜降や綾取り糸の忘れ物
母と生きる火宅を抜けて桃を剥く(三世火宅)
近江文代書き順を間違え曼殊沙華一本
散骨の忽ち小鳥来るならば
猫きっと来るコスモスは束となり
入りゆく団地の子供茸山
今生は囮にされる鳥になる
佐藤りえコスモスや向こう側からも犬が来る
鵙も来よ株式会社月世界
霧の電柱幽霊船の帆と見ゆる
古書店の百均台や夜長く
筑紫磐井山姥の
醍醐味は智山・豊山の紅葉など
数列の視界を秋の蝶が舞っふ
たつたいま見殺しにして秋の蟬
花野とは子供ひとりが消える場所