2020年1月17日金曜日

令和元年 冬興帖 第三/令和二年 歳旦帖 第二(網野月を・大井恒行・神谷 波・花尻万博・近江文代・なつはづき・林雅樹・曾根 毅・池田澄子)


【冬興帖】

網野月を
どこからがいやどこまでが冬の空
冬の薔薇名の無い毒を潜ませて
霜柱狭い歩幅の大足跡
橋は名を残して霜の遊歩道
マフラーを持て余してる夜店の子
冬の海ないものがある神童忌
バックミラーに絡み付いてる冬の蝶


大井恒行
死後もはるかに木々に雪あり山や海
五明後日ごあさってはるばる痩せる冬落暉
花鳥風月おかんなぎまためかんなぎ


神谷 波
裏山にそつと近づく冬三日月
名古屋まで往復切符小春日和
おにぎり買ふ小春日和の名古屋駅
かならず買ふものに束子年の暮
ほっとけないわ数え日の空模様


花尻万博
狼の優し狼知らぬ波に
狼映つてたか小さな小さなテレビ
磯漁の一族として餅搗ける
始まりも途中もあらぬ餅配
鯨割く潮の流れ歌う者らよ
鯨老うなかれ記紀の終はるまで


近江文代
片方の顔が綺麗な落葉焚
忘却の彼方を鶴の凍てており
ピアノごと沈む絨毯ふるさとは
わたくしの男にマスクかけてやる
白鳥の王様になるまで叫ぶ
 

なつはづき
夜の底をまさぐるように兎罠
開戦日衣ばかりの海老天麩羅
凍鶴やうなじが知っている言葉
西遊記の結末知らず冬山河
寒林や耳が時間を食い潰す
冬霧を裂いてはだかの眼でふたり
ブレーキの利かぬ思い出毛布干す


林雅樹(澤)
キスすれば離るゝ頬や冬銀河
日曜の工員寮や花八つ手
巨大なる麺麭工場や銀杏散る
そはそはと動く鸚鵡や日記果つ
腹芸の百面相や年忘れ


【歳旦帖】

曾根 毅
海光の鳥から人に流れけり
春寒し情事のような箸一対
円形に日の射している書斎かな


池田澄子
することのなくもがな去年今年かな
見つめたり喉のぞいたり初鏡
赤ん坊へ変な声出し松の内
初春と思えば初春の遺影
永久に在れ雪の故郷の箱階段