2023年6月30日金曜日

令和五年 春興帖 第三(山本敏倖・小林かんな・浜脇不如帰・仲寒蟬)

【春興帖】

山本敏倖
春うらら四分音符らと街へ行く
青だけの空に貼りつく飛花一片
骨格に浮力を付ける花明かり
陰陽はとろいか春の腹話術
ぎやまんの奥の奥へと麦を踏む


小林かんな
弁財天へ橋もり上がる花筏
物種蒔くこの地に都永くあれと
大陸の裳裾を絡げ潮干狩
ひこばえる命婦侍従のみな低く
峡越えくる田螺売も花嫁も


浜脇不如帰
十字架は花火かバラエティ豊か
脇にキズ鮎にカルシウムが足らず
扇ぷう機それが自転の精一杯
じょうねつが炎えさかるほど水鉄砲
はれわたる月水金の雪解富士
空腹が兄弟のいくさを起す
「十」が天圀江の鍵やおとしぶみ


仲寒蟬
梅嗅いで発掘現場へと通る
夕桜旗亭に死すと年表に
クラスには翔平ふたり入学す
二流国などと自虐を目刺食ふ
亀鳴くや原子炉は地にうづくまり
春眠や涎たふとし老僧の
林檎咲くロシアを嫌ひにはなれず