2019年11月15日金曜日

令和元年 夏興帖 第二・秋興帖 第二(夏木久・山本敏倖・望月士郎・曾根 毅・辻村麻乃・仙田洋子)



【夏興帖】
夏木久
この坂は上りか下りかはイソップ
向日葵に黒子或ひは空似とも
間違ひは偶々月の無人駅
膨大な夜の片隅の腕枕
星月夜死後より椅子は徐に
明易し夢からの電話待つてゐて
裏窓をさも嬉しげに飛ぶドローン


山本敏倖
10Bの金釘文字の暑さかな
六月の通奏低音あるかでぃあ
古代史の律令に穴紙魚走る
油蝉稲荷の裏の古代杉
水打って記憶の路地と路地繫ぐ


望月士郎
毛虫焼くときもしずかな薬指
うす塩の空蝉カウチポテト族
黙祷のくびすじ夏蝶のつまさき
八月六日ふりむく街のみな双子
空席にハンカチのあり広島忌


【秋興帖】
曾根 毅
露けしや苦しまぎれに抱きたる
紙おむつ穿き替えてから秋刀魚焼く
慰めにあらず日暮れの木守柿


辻村麻乃
駅前が海になりたる台風禍
二代目は無口な店主貴船菊
鰯雲遠き街より暮れなずむ
山は我我は山なる野分あと
頭からがぶりと秋刀魚喰らひたる


仙田洋子
トス高く上がりし空を秋燕
飛べさうもなき字の重さ蟿螽は
こほろぎの雌こほろぎの雄を踏み
   明治神宮 四句
おほかたは莟のままの菊花展
菊花展もう飽きてゐる男の子
奉納の菊や明治の世を思ふ
奉納の懸崖菊の古びざる