2021年9月17日金曜日

令和三年 夏興帖 第一(なつはづき・堀本吟・飯田冬眞・青木百舌鳥・杉山久子)



なつはづき
あの言葉この言葉夏野から持ち帰る
辰雄忌や驢馬柔らかく風にいる
カタカナが舌にもつれて梅雨寒し
夕虹や心が透けそうなドレス
炎帝がみっしり席を埋め五輪
裸足から幼さ消える片思い
のうぜんか会釈のように日差し揺れ


堀本吟
長い触手がゆるゆる水母水くさし
炎天のマスク脱ぐまいエチケット
歩道橋犬とマスクをして夫人
朝顔や水道工事の穴だらけ


飯田冬眞
憲法記念日池にはびこる外来種
修司の忌澤田和弥のいない夜
夏の星宿のタオルを首にかけ
語り継ぐ革命前夜ジャスミンよ
朝帰り月下美人を置き去りに


青木百舌鳥(夏潮)
花あふち木蔭に風を招じけり
バナナ撮る足を揃へて裸婦のやうに
畳まれて記憶小さし梅雨籠り
夏草の花ののんどを擦る葉も


杉山久子
蜘蛛黒く太りたる嵌め殺し窓
剽窃のしづかな蠅として集る
マスクよしっ滅菌シートよしっ晩夏