2021年10月22日金曜日

令和三年 夏興帖 第六(のどか・夏木久・早瀬恵子・竹岡一郎)



のどか
幼き手にバナナを二丁カウボーイ
山法師の花や老ひたるニュータウン
旅行ガイドの付箋紙の増え秋隣
炎日や厳かにするトーチキス
寝ころびし青芝と息あわせをり


夏木久
寝室へ四角い夜の侵入後
パレード後の夢の広場の蝸牛
アフガンもロレンス在らず並ぶ銃
半畳の案山子の不味い性生活
永遠=銀河の底辺×時間÷2
海溝を回想ゆれて敗戦忌
紅型を魚の形に夜の海流


早瀬恵子
残暑とや吻に屏風を立てるごと
科学と政治ダリアかっと咲き
赤い遺伝子モルモット風人類に
てらてらとふふむ銀なり蛇曼陀羅


竹岡一郎
船溜り箱眼鏡より火があふれ
翡翠とわれ幽谷を遁れゆく
贄の決議が巴里祭の議事堂に
炎帝に医学部昏きまま吞まれ
河原より梯子すずしよ橋へ立て
涙形に鱗融けをり蛇去れば
山蟹の鋏や雨意に紅深み