仲寒蟬田水張り前方後円墳かこむ
あぢさゐを見るたび三善英史の「雨」
いつの間にか合唱となる登山小屋
息詰めていま蚊柱を抜けにけり
その泉顔うつしてはならぬと言ふ
海見えず波音聞こゆ夏座敷
箱庭に父ただひとり待たせをり
ふけとしこ波荒れて鵜が白々と汚す崖
昼席の出囃子洩るる若葉かな
池釣りの視線が留まる合歓の花
浅沼 璞四五人の虻を怖がる日傘かな
動かない動物とゐる朝曇
穴毎に紐が出てゐる夏館
水すまし設計図とはやゝずれて
壁抜ける肋骨細し夏の蝶
教会に扇子の動く祈りかな
左右から苔むす壁の曲がりくる
【秋興帖】
杉山久子盆僧の猫をかもうて帰りけり
カラオケの最後肩組む獺祭忌
秋風にほどくシナモンロールかな
辻村麻乃音として龍となりたる秋の雷
カーブミラー残暑の街の裏返る
口閉ぢて枯るるも美しき白桔梗
虫籠に少年の息閉ぢ込むる
ひよつとして戻り来るかと茄子の馬
海水のざらりと八月十五日
アトリエの裸婦葡萄より暮れてゆく
仙田洋子広島に長崎に鳴く月鈴子
山国の山ふところの稲の花
ちちははの亡き敬老の日なりけり
山を撫で海原を撫で秋の風
裏山の暗く大きく蚯蚓鳴く
蚯蚓鳴く皆既月食始まれり
秋灯のことに明るく呑み処
