2026年9月11日金曜日

令和七年 冬興帖第一(下坂速穂・岬光世・依光正樹・依光陽子・花尻万博・小沢麻結・岸本尚毅・前北かおる・白石正人・ふけとしこ)

【冬興帖】

下坂速穂
翁忌や木の葉のやうに集まつて
ひろげれば大きな冬の翼かな
つらなれる光となつて草枯るる
青空の磨き上げたる冬木かな


岬光世
煎餅の色つく間の冬浅し
弱み在る客を呑んだる大熊手
茎の桶ひとつ屋号として高く


依光正樹
人や熊殺せば済むや冬に入る
割つてみし水に色ある大根かな
待たされしこの身を打てば息白し
池の魚痛々しくも霙来る


依光陽子
短日のねぢれて皮の栞紐
冬枯や写真になつて木も人も
成虫越冬この町が好きであり
冬の河声の滑歳旦帖つてゐる次々


花尻万博
既知過ぐる水仙は目を鮮やかに
人の波魚影にまぎれ年の暮
産道の長さいまさら吹雪くとて
うつし世へ手を伸ばしけり浜大根
粕汁やラヂオは説教いとほしむ
夜を越えて果ての入りばな捕鯨船


小沢麻結
黒ずくめなり一徹の焼鳥屋
眼裏を消えずさつきのは狐火
聖夜劇翼をしかと針と糸


岸本尚毅
枯蔓に下がる古葉や砂がつく
我のもの汝が着たれば褞袍めく
釣り上げしもの枯草に落ちて跳ね
襟巻の人や素十に似てゐたる
冬蠅に肉のやうなる落椿
外套を膝にかけたり部屋暗く
室咲や骨格模型顎ひいて


前北かおる
クリスマスイブのスナックフェニックス
クリニック総出で松を飾るなり
歳晩の河口の雲の明るくて


白石正人
陋屋の鎖のごとき寒さかな
煮え滾るおでん幸徳秋水忌
ぼろ市に皇軍慰問葉書かな
凍光や顏なき列の最後尾


ふけとしこ
煙突の内に声ある十二月
雪晴れや電線保護保護管の黄色
鎖樋雪が雫となり氷柱