2020年7月24日金曜日

令和二年 花鳥篇 第九(北川美美・小林かんな・椿屋実梛・下坂速穂)



北川美美
鶯や昨日の庭に手を入れて
みつちりと十薬の庭文字うつり
老鶯や巨石並べて庭石屋


小林かんな
黒南風や果実を龍と名づけたる
指笛は市場のおじい雲の峰
芭蕉畑より日焼けして子と大人
気圧910ヘクトパスカルソーダ水
海蛇を燻して吊るす朱の瓦


椿屋実梛
令和二年春がなかつた気がしてる
闇市のごとくマスク売らるる商店街
ひとりしづか巣籠り生活慣れてきて
自粛といふ言葉に慣れて豆ごはん


下坂速穂
真夜中の雨明け方の燕
行かぬ方の道うつくしく麦の秋
麦秋を見つめてしづかなる二人

2020年7月10日金曜日

令和二年 花鳥篇 第八(高橋美弥子・菊池洋勝・川嶋ぱんだ・家登みろく)



高橋美弥子(樹色)
下萌や産直市に人あふれ
春暁の悪夢を獏に食はせたし
春の月ラピスラズリを握りしむ
バタールを十回囓んで春時雨
春ショール三越前の閑散と


菊池洋勝(樹色)
石鹸玉飛べるソーシャルディスタンス
憲法記念日のテレビ会議かな
渋谷駅展望台へ蟻の道


川嶋ぱんだ(樹色、夜守派)
食パンの穴に足長蜂の穴
つばくらめきて向日葵の群のなか
夕立の溢れて沈下橋怒濤
夏蝶がどんどん増える無菌室
蛇口錆びれば蜈蚣這い触れられず


家登みろく
ほむら立つ日の出の中や伊勢詣
人が人厭ふ春なり疫病えやみ
風見鶏ぐるぐるときのけの春を
忍ぶれど恋の鼻歌チューリップ
南風待つ紙飛行機は芝の上に

2020年7月3日金曜日

令和二年 花鳥篇 第七(真矢ひろみ・渕上信子・曾根 毅・のどか)



真矢ひろみ
花篝焚いて百鬼のしんがりに
亀鳴くやカーナビ座標北にずれ
ロボットの長い瞬き風光る
飛花に顔上げて軌跡は眼裏に
素数てふ割り切れぬ数おぼろの夜


渕上信子
涅槃図や遠近法が変
手のとどく鳥の巣のからつぽ
さくらんぼ未完のグッド・バイ
堂々と玄関から蜈蚣
犬は片足上げ小判草
ちまむちまむと尺蠖虫は
なつれうり器をかへただけ


曾根 毅
花冷の枕の端が縮むなり
花筏妻の匂いを潜めたる
花客なり別れのときは離岸めき


のどか
朱の紅は覚悟の色や晶子の忌
燃え上がる草矢の射ぬく処から
石楠花や懐妊を知る日の鼓動
軽鴨やモンローウォークの母を追ひ
雛罌粟や転校生は帰国子女

2020年6月26日金曜日

令和二年 花鳥篇 第六(早瀬恵子・水岩 瞳・青木百舌鳥・網野月を)



早瀬恵子
ほっほ螢ハッピーホルモン追いかける
深窓の母はコロナの蚊帳の外
鉄線花まだ狂いたき坂の風
ストイックな分身虹の果てまでも
名歌とや新たまねぎを剥くあした


水岩 瞳
木屋町の橋桁集合花筏
自粛てふ謹慎のごと花は葉に
籠り居のままにつれづれ躑躅燃ゆ
草稿は草稿のまま風薫る
扇風機さげて居間きてテレワーク


青木百舌鳥
葛の芽ののぼりて草を締めきらず
十薬を摘みをる婆もマスクなる
蕗若葉広がりきつて日に垂るる
交番や蚊取線香の火を左右
田植機の矻矻と水押し分けて


網野月を
右利きの蛇に好かれる右巻貝
薄暑かな浦和太郎の妻花子
蝌蚪は蛙に二枚目の二枚舌
習いても天分の有無夏うぐいす
心って交わらないの花いちじく
捨てられぬものばかりなり父の日来
あなたの影はあなたではなし夏燈

2020年6月19日金曜日

令和二年 花鳥篇 第五(網野月を・前北かおる・井口時男・山本敏倖)



網野月を
こどもの日此処だったかな秘密基地
おとといはあれだ親父の誕生日
元カノの後ろ姿や夏きざす
夏めくやバッティングセンターの割引券
通販のドガのレプリカ花は葉に
睡蓮の鉢を沈める怒り肩
葉桜に未来というの来てしまい


前北かおる(夏潮)
物忌になぞらへて夜々おぼろなる
忌籠の日数のつもる春埃
応援の如くに布団叩く春


井口時男
歳時記に君の句ありと花あせび
八年経ぬ死にたればまたヒヤシンス
マスクして寡黙な春となりにけり
花盈ちて虚空波立つウイルス禍
空咳に小鬼さゞめく花明り
蝶落ちて鱗粉の街メイド服
さながらに陽光散華叫天子


山本 敏倖
菜の花に辿り着いたる我は誰
自撮りする背後は古代桜かな
さえずりの平行棒は変体仮名
殿様蛙古城のように身構える
火焔土器をふっと離れし烏揚羽

2020年6月12日金曜日

令和二年 花鳥篇 第四(林雅樹・渡邉美保・ふけとしこ・望月士郎・木村オサム)



林雅樹(澤)
日溜りに鸚鵡の籠や啄木忌
イーゼルの向かうの裸女や春の鳥
街道の音はたと止む猫柳
鉱泉のぬるきに浸る若葉かな
葉桜や水澱みたる鶴見川


渡邉美保
森に降る雨のこまやか抱卵期
藤棚の下に来てゐる緊縛師
疫禍とや芭蕉玉巻く悲田院


ふけとしこ
ゆく春の箒にからむ鳥の羽
バス時刻表囀りに取り巻かれ
クリムトの零せし赤か罌粟ひらく
八十八夜蔓持つものは蔓で攻め


望月士郎
新社員みな人形を抱いて立つ
苗札とちがう花咲く丘の家
字余りのような顔つき毛虫焼く
影法師ひたひたと来るもぬけの夏
髪洗う空中ブランコが見える


木村オサム
あるのかい死者の側から見るさくら
あごひげを撫でる神々さくら散る
テーブルにピエロが一人花の昼
さくらさくら日本は詩人多き国
ひかり射す巣箱の中の大伽藍

2020年6月5日金曜日

令和二年 花鳥篇 第三(松下カロ・花尻万博・堀本 吟・竹岡一郎)



松下カロ
おたまじやくし産湯の中で泣いてゐる
銀髪の少年少女修司の忌
家出したことがないから蟾蜍


花尻万博
葱の花追はるる遊びその果てに
表の無い後姿を狩る蕨
鬼薊言葉に起こす今更に
蕨狩り進みつつ沖見てしまふ
いつか見た子鬼を思ふ花苺
逃げぬ男逃げぬ女と蕨狩り


堀本 吟
穴出ると帰れと言われ長蛇の列
亀鳴くや甲骨文の堆く
太陽を浴び日本の黄金週間
見えぬものも共にいて耳すますグレイゾーン


竹岡一郎
かへれない全てのものへぶらんこを
蝶のゐる切岸までを耕せり
初夏は割腹しくじる度に増える臍
梅雨の人形髪伸び爪も歯も尖れ
失踪の半世紀後の川床に遇ふ
合金の義体にビキニあたし不死
弱き魂煮えたり鵺よ共に喰はん