2024年6月14日金曜日

令和六年 歳旦帖 第四/令和五年 冬興帖 補遺(杉山久子・木村オサム・小林かんな・ふけとしこ・早瀬恵子・浜脇不如帰・下坂速穂・岬光世・依光正樹・依光陽子)

【歳旦帖】

杉山久子
対岸の仲間へ啼けり初鴉
犯人の見当つかぬ読始
買初の途中のプリン・ア・ラ・モード



木村オサム
人日やみんなうなじにコンセント
人日の埴輪の顏を覗き込む
人日やわたしの中は別なひと
人日のボンレスハムの糸ほどく
人日や仮面外すがすぐ付ける



小林かんな
それぞれの位置に鴨たち初景色
初雀老婆三人手を合わす
浅草に人あつまれば笑初
双六に今年の運を使い切る
比類なき単純であり初芝居



ふけとしこ
虎豆も黒豆も煮え小晦日
砂時計の仄白き影年新た
足跡を州浜に残し初鴉



【冬興帖】

早瀬恵子
顔のなき冬天ゆるび地球弾
噴き出せり抹茶ラテの輩たち
つつがなくワイン日本酒からっ風


浜脇不如帰
きりすとは彼が掌くだきてはつひので
散在したる痛点にすきまかぜ
政権は特におでんの具でもなく
蝶凍つるじかんのひずみ否みつつ
インド式九九のてほどきてぶくろに
金将の裏まで読んでたらばがに
カルバリの主と寒晒寒晒



下坂速穂
水仙やとほくに人のあらはれて
鳥に戻つて冬空へ飛んでゆく
萩枯れていつまで揺れてをりしかな
年下の君にも白髪町も冬



岬光世 
数へ日や仕事帰りに寄る花屋
清き藁匂ひたちたる年用意
小晦日埃の交じる星の砂



依光正樹
人の手と動物の手と冬に入る
冬の音見上ぐればまた雲流れ
スケートや手摺り磨きも楽しくて
寒ければ寒いと言ひし女かな



依光陽子
水連れて雲は来にけり栗の毬
水鳥に無色の水を絵筆かな
水槽の金魚に冬の時間かな
雪来るやがさりと鳴りし袋麺


2024年6月8日土曜日

令和六年 歳旦帖 第三/令和五年 秋興帖 補遺(山本敏倖・岸本尚毅・浜脇不如帰・冨岡和秀・下坂速穂・岬光世・依光正樹 ・依光陽子)

【歳旦帖】 

山本敏倖
滅びなる予言のかたち元旦の地震
鏡餅ずらし平和を呼び寄せる
液化するピアノのような初日かな
初夢を覚めても醒めても夢の中
霊辰(れいしん)の扉を開き水を歩く


岸本尚毅
近づくや花びら餅へ鼻と口
水仙がおもちやの如し避寒宿
伊勢みちや冬田の雀みな空に
ひしやげたる箱を苛み寒鴉
スズメ鳩ヒヨドリ枯木おじいさん
もの問ふが如き木の影春近し
笹鳴やうす濁りしてあら煮の眼


浜脇不如帰
冬耕の痕が微かに将棋盤
泰然と構えてしまえこたつねこ
富士額てかげん無用雪礫
きりすとが電気はしらす鶴の骨
冷やかしてげふっと冴えるウィルキンソン
十字架の苦すら本鮪の造
緩急をツケて湯気立つ卅日蕎麦


冨岡和秀
旅涯てに地獄めぐりや恐山
斜陽館文士の声が滲み出す
虚家(からいえ)はいずこにゆけば光満つ


【秋興帖】


下坂速穂
或る町の消えて道ある秋彼岸
厨房の二人に狭し小鳥来る
隙のなき色となりたる唐辛子
水澄みて校歌はいつも山や川


岬光世
新秋や波除願ふ水の音
秋桜ををしき海の鳴り止まず
蔵町を舟と流れて後の月


依光正樹
石ごとに丸みのちがふ水の秋
携帯のなきころの吾秋が澄み
秋の野や桜でんぶの弁当も
町に入りて秋の気配の遠くなり


依光陽子
るりしじみ秋へ秋へと誘ふは
波音のする人美術展覧会
眼の玉に水陰うつす蜻蛉かな
空を来て花野に遊びゐたる人

2024年5月31日金曜日

令和六年 歳旦帖 第二/令和五年 秋興帖 補遺(小野裕三・水岩瞳・神谷波・早瀬恵子・浜脇不如帰)

【歳旦帖】

小野裕三
麺類の看板続く小正月


水岩瞳
元旦や揺れて机の下に入る
二つの神籤いいとこ取りする辰の年
二日はや隣りの坊のバイク音
胡桃入りのごまめまだある五日かな
図書館に十代の句集春隣


神谷波
まんまるの月数へ日の窓ごとに
元日の暮れかかる頃家揺れる
吹きとんでしまふ正月気分かな


【秋興帖】

早瀬恵子
長き夜の脳内パズルかけめぐる
降りみ降らずみアナーキーな秋
点滴と酸素の母じゃ澄み渡る


浜脇不如帰
あかるくは月と椛と基督の肩
ほつるるはできれば秋分の日でも
双肩がちきゆうをわかるむししぐれ
右肩を失くしたやうに瀑したり
馬肥えてやつと雲の上を語る
月の砂齧る6番アイアンに
地にいちど転がりし柿かも基督

2024年5月25日土曜日

令和六年 歳旦帖 第一(辻村麻乃・豊里友行・川崎果連・仲寒蟬・仙田洋子)



辻村麻乃
夢の淵素粒子となる初旭
ぽつぺんや闇より息を吹き入るる
襟巻に埋もれて眠る終列車
時々は豆も混ぢりて春の雪
春の雪すすはや都心の立ち往生
線路より歩道に漏るる冬日差
権八の恨めしと鳴く寒鴉


豊里友行
追突の身体は積木恐竜だ
プチトマト七粒分の朝の不調
鯨はこっちにおいで天秤の体
葡萄食う一粒ごとのプライバシー
恐竜の骨組み拒む初興(はちうく)
勝牛の綱は蜂起の島うねる
新春の羽搏き洗濯物を干す


川崎果連
影踏みは遊女の遊び初日の出
嫁が君お一人様が石投げる
独楽廻し父は今年も左巻き
双六のあがってからの無聊かな
血縁の濃きは帰りぬ七日粥
死はときを選ばぬものよ米こぼす
初鏡賞味期限の切れるまで


仲寒蟬
椀底に礁のごとく雑煮餅
初詣普段着のまま里の神
国にも家にも鏡餅にも罅
郵便の赤が横切る初景色
初風呂へ去年の湿布を貼つたまま
たちまちに初日の写メの来る来る来る
成人の日のパンプスに道ゆづる


仙田洋子
金剛力士かつと目開く初日かな
お降りや何処へも行かぬよろしさよ
松過のけふも太陽うるはしく
小正月ぽかぽかと空ありにけり
左義長や名もなき星もかがやける
餅花の星々のごとまはりをり
初句会終りし空の暮れきらず

2024年5月17日金曜日

令和五年 秋興帖 第八/冬興帖 第八(小野裕三・佐藤りえ・筑紫磐井)

【秋興帖】

小野裕三
臆病な貨車十月の石運ぶ
銀杏紅葉家に番犬法に番人
金木犀に助太刀されていたりけり
技師ひとり冷えていくなり始発駅
曼珠沙華予知夢の中に並びけり


佐藤りえ
糸瓜殿夕顔殿に日の高し
ガブリエル・ミカエル神の汲む新酒


筑紫磐井
八百政が秋のかたちのものひさぐ


【冬興帖】

小野裕三
片恋をもう隠さずに石蕗の花
人影が人影として飲む葛湯
冬薔薇女の名前欲しがりぬ
錯覚の消えぬ枯薗ありにけり
梟の部首を集めていたりけり
泣かぬように冬の金魚が翻る


佐藤りえ
そらで書く地図にか黒き冬の川
風邪の日眼鏡になにも見せない日


筑紫磐井
戦後史も昭和史も時雨けり

2024年4月26日金曜日

令和五年 冬興帖 第七(川崎果連・花尻万博・眞矢ひろみ・なつはづき・五島高資)

【冬興帖】

川崎果連
枯菊や添木にたよる世でもなし
凍滝や修行の尼僧シースルー
マフラーをぐるぐる巻いて父はクビ
雪隠に雪うち散るや歌舞伎町
尻出すな嗚呼おとうとよ浮寝鳥
小米雪ヤンヤヤンヤの葛西橋
たぶんもう失うものはない氷柱


花尻万博
夕空のどこまで続く毛皮の女優
寒霞静かなキャンプに堰かれている
乙女らよ北風額に流しながら
水仙の通りに延びる川湯かな
炭の音や甘噛む犬と心晒して
やや高く烏が鳴いて雪と知る


眞矢ひろみ
天命を知る凍蝶の文様に
雪おんな真空管のひかりだす
老境のおぼろは楽し枯芙蓉
極月のAIに問うメカの罪
濡衣を着て寒鯉となりしかな


なつはづき
片時雨君の手紙を伏せて置く
さざんかや噂はなんとなく信じ
冬銀河尾を太らせてゆく獣
葉牡丹や唇いじらしく乾き
綿虫や指じんじんとする手紙
雪女虫歯はキスが甘いから
濁音になりきれぬ風石蕗の花


五島高資
幻日にはにかむ冬の旭かな
笑む子より高く枯れたりからすうり
男体山眠る孝明天皇祭
狐火を翼かすめて離陸する
遺されて冬三日月のゆれ止まぬ
凍星の降つては昇る瓦礫かな
寄り添へる命なりけり冬銀河

2024年4月12日金曜日

令和五年 秋興帖 第七/冬興帖 第六(花尻万博・眞矢ひろみ・なつはづき・五島高資・辻村麻乃・網野月を・渡邉美保・望月士郎)

【秋興帖】

花尻万博
囮あり人といふもの集まりゆく
鉄橋と繋がっている栗の木々
自然薯や幾人埋めし紀の山に
最果ての見えると聞きて柘榴頂く
小鳥網透けて野の空四方あり


眞矢ひろみ
月明に波あり夢殿押し開く
生死不二鈴虫はそう哭いている
老いゆくや銀河のわたる心字池
虚仮の世に月下の象として歩む
神迎大きな耳の族が来る


なつはづき
敗戦日蕎麦猪口に蕎麦へばりつく
空耳はわたしの余白桃熟れる
コスモスや薄い背中で無視をする
鈴虫に混じる合鍵捨てる音
檸檬噛む栞を挟みたくない日
人感ライトいちいち光る文化の日
影錆びて釣瓶落しのパレスチナ


五島高資
透く風の時代や色を変へぬ松
龍灯やスンダランドの浮き上がる
月の射す魔術書にある朱筆かな
月草の帰りそびれて咲きにけり
いなびかり硯の海の深さかな


【冬興帖】

辻村麻乃
立冬や歯科医の指のぬるりとす
凩や自転車二台寄り合へり
尾長鴨ぴゆういと鳴きて人去れり
小夜時雨音の垂れては川となる
綿虫を飛ばして見せる友の指
包帯を昔の傷に巻きて冬
冬日向大切さうに犬抱ふ


網野月を
日和中じゃぶじゃぶ池の番鴨
義央忌雪は氷雨に冬桜
落葉籠サンタクロースのやうに負ふ
数へ日や読売新聞販売促進員
冬晴を石のかたちに愉しめる
バッチグーは死語であるかも夕みぞれ
茶を淹れた妻へ蜜柑を転がして


渡邉美保
侘助や首筋ふいに重くなる
暖房のよくきいてゐて待たされて
水仙のもの思うさま横向いて


望月士郎
あまてらす顔をうずめて干蒲団
白息と綿虫まざりわたしたち
小雪降る老いごころとは旅ごころ
雪のあね雪のいもうと雪うさぎ
さよならの「さ」からゆっくりと氷柱