2018年2月9日金曜日

平成二十九年 冬興帖 第五(ふけとしこ・花尻万博・田中葉月・渡邉美保・飯田冬眞・池田澄子)



ふけとしこ
鉋屑貰ひ焚火の始まりぬ
冬木立園長室の帽子掛け
寒晴を暴れん坊の神が行く
広き葉を打つや走るや玉霰


花尻万博
狩の犬眠りぬ星の音を連れ
波が波呼んでウツボの漁盛り
夜に続く紺緩みけり温室の花
息白く遠く歩めりいつか子も
生きている寒鮒の息確かかな
沖の馬寒星の中嘶(いなな)かず


田中葉月
風花す銀紙ほどのやさしさに
寒月光ゆめくひ人のすんでをり
シャングリラ底から覗く銀狐
冬眠やチョコレートの箱満員で
父母の遺影はいらぬ牡丹雪
うたいたい歌うたへない水仙花


渡邉美保
槍鉋並び金物市小春
空中都市めきてビル浮く渇水期
燐寸より生まるる火影憂国忌


飯田冬眞
雪吊や張りつめてゐる尿検査
開戦日ふさがりかけた傷ひらく
葉牡丹の小部屋よ桂信子の忌
冬うらら孔雀に影を踏まれゆく
ぼんやりとバスを見てゐる冬休
白鳥やこの首どこに畳もうか
どら焼きを鞄につめて春支度


池田澄子
雪しずく日は造作なく西へ西へ
吹雪く夜の水族館の水母どちよ
これぞ朴落葉なるぞと朴落葉
スカパ!光に男ぴかぴか疲れて冬
返り花どの道だれも居なくなる

2018年2月2日金曜日

平成二十九年 冬興帖 第四(中村猛虎・小野裕三・山本敏倖・椿屋実梛・水岩瞳・近江文代)



中村猛虎(なかむらたけとら)
寒紅を引きて整う死化粧
遺骨より白き骨壷冬の星
葬りし人の布団を今日も敷く
木枯らしの底に透明な柩
冬ざれの遺骨に別れ花の色
極月や人焼く時の匂いして
青鮫の四十九日の宙を行く


小野裕三(海程・豆の木)
陽の射して妻の本棚冬眠のよう
大いなる遊びのごとく柚子湯かな
毛布へと絡まりながら寝る兄弟


山本敏倖(山河・豈)
次世代へ何を語るか木守柿
雪ほたる祝辞のようにらせん描く
冬銀河一粒は今頬を伝う
粉雪の向うはしかし鬼の童話


椿屋実梛
タクシーが停まってくれぬ寒夜かな
それぞれの孤独の吹雪く純喫茶
煮凝や言語化しない憂さのあり


水岩瞳
短日やあれこれそれとまだどれも
口じゆうに麦門冬湯ちやんちやんこ
冬眠すると言ひて少年口閉ざす
フレームの花の生涯外は雨
コイン占ひ裏は表へ寒明忌


近江文代
山眠る結束バンドに柔軟性
他人めく妻の片顔焚火濃し
手袋の右と左に持つロープ
温室の花の高さで物を言う
鴨南蛮セーターの袖長くあり
真空の餅真空のままでいる
首長く吊られて鴨よ華人街

2018年1月26日金曜日

平成二十九年 冬興帖 第三(内村恭子・曾根 毅・神谷 波・渕上信子・大井恒行・前北かおる)



内村恭子
天窓の氷雨やフィヨルドは青く
窓に霜帆船沖をよぎる朝
毛糸編む窓辺漁より夫帰る
島に婚ありし暖炉の赤々と
冬深む夜の深さのままの朝


曾根 毅
寒林過ぐ次の電車は血を流し
どの指も朱肉に塗れ年の暮
白菜と白菜と黒いビニール吹かれ


神谷 波
石の上枯蟷螂の眠さうな
いろいろなことあり冬至のメロンパン
クリスマスイヴで大安で大欠伸
金星のここぞとばかり枯木道


渕上信子
八王子初時雨を自慢
煤払この女螺子どこから
寒鰤捌く腕逞しき
リルケを刺して冬薔薇の黙
懐炉背中にスーパームーン
寒オリオンのいよよ仰け反る
すべて些事冬の大三角


大井恒行
寒影を温くわかちて街の角
災後にも七年(ななとせ)はあり雪の華
石蕗黄なり故郷の姉はみまかりぬ


前北かおる(夏潮)
小春日や甘蔗畑の道なほし
渓流に魚の影なき真冬かな
駆け付くるサンタクロースイルカショー

2018年1月19日金曜日

平成二十九年 冬興帖 第二(松下カロ・岸本尚毅・林雅樹・早瀬恵子・杉山久子・木村オサム)



松下カロ
凍るまでぢつとしてをり写真立
氷にも水にも人の映りけり
凍るたびやはらかくなる腕と胸


岸本尚毅(「天為」「秀」)
小春日の泥のやうなるカレー食ふ
ふはふはと飛ぶぼろぼろの落葉かな
しみじみと筋ばかりなる落葉かな
あをあをと落葉の下の龍の髭
憤死して落葉の宮に祀らるる
見慣れたる大海原や蜜柑食ふ
笹鳴に遠く小さく海はあり


林雅樹(澤)
目嗔らせ千葉真一や寒稽古
牽かれゆく事故車に冬に日の暮るゝ
木枯をしのぐやブルーシート張り
初雪に尾立つる犬や肛門見せ
縄張のされて空地や冬の草


早瀬恵子
雪の花ちょとそこまでの小宇宙
山茶花や人声ざわと人逝ける
影向(ようごう)の返り花めきご命日


杉山久子
初霜や投函わすれたる手紙
シャンソンに耳そばだてる狩の犬
しぐるるや木の椅子多きブックカフェ


木村オサム(玄鳥)
寒波来るウオッカの染み付けたまま
会ふたびに口紅違ふ雪女
錆びてから動かす冬の重機群
裸木に鞄を掛けて殴り合ふ
冬枯や疲れた脳の線描画

2018年1月12日金曜日

平成二十九年 冬興帖 第一(小沢麻結・夏木久・辻村麻乃・堀本 吟・網野月を・坂間恒子)



小沢麻結
セーターの彼には話す今も全て
侘助や坂東へ彼いつ戻る
札幌に男足止め雪女郎


夏木久
破風仰ぐ火急の報せ神無月
膠もなく風に与すとの言伝
小春日の卓の余白にある碇
手招きに月の隙間へ枯芭蕉
星に馬車繋げば遠き祭囃子
半券を風に曝してゆく聖夜
木枯が角にこぼせる笑ひ茸


辻村麻乃
寄せ鍋をぐんぐん突きて晩鐘
冬満月今度は主婦になりたまへ
我々が我になる時冬花火
袋小路我が家の上の冬オリオン
凍蝶の戻るべくあり音楽堂
冬霧の三ツ鳥居より蜃に会ふ
初雪に摂社ずらりと並びをり


堀本 吟
 闇の鍋
 大阪に大正期の遊郭を料亭として営む店あり
極月や悪のあれこれ思うとき
遊客の霊に憑かれる冬玄関
部屋めぐり極彩色の絵に巻かれる
ご不浄寒し女将の粋(すい)の絵天井
花魁が横に来ている闇の鍋
虎刈笛むかしの妓楼いまの闇
枯蟷螂殺し文句に鎌立てな


網野月を
ワレワレハコノホシガスキ雪ばんば
あなたの視線綿虫を見るような
すきま風あの娘の箸の使い方
勇魚食う何百万分の一なりや
中に藷上にくだもの堀炬燵
現代俳句協会(ゲンハイ)やトイレの中の古暦
古暦慶子の下にコウ掛けて


坂間恒子
紛争に終わりのなくてしろさざんか
桃山の牡丹・錦鶏・冬の虹
油屋与兵衛足跡を消す寒椿

平成二十九年 秋興帖 追補(早瀬恵子)



早瀬恵子
四の五の六のお湯割りや白秋忌
天馬ひき方言屋台月の顔
娘から紅 枝変わりにてさつま芋

2017年12月29日金曜日

平成二十九年 秋興帖 第十(中村猛虎・仲寒蟬・堀本 吟・田中葉月・望月士郎・筑紫磐井・佐藤りえ)



中村猛虎
卵巣のありし当たりの曼殊沙華
余命だとおととい来やがれ新走
脊椎の中の空洞獺祭忌
モルヒネの注入ボタン水の秋
新涼の死亡診断書に割り印
鏡台にウィッグ遺る暮れの秋
深秋の遺骨に別れ花の色


仲寒蟬
すぐ切れる輪ゴム八月十五日
ひぐらしの染み込みしシャツ洗ひをり
裏口の奥に裏山稲の花
大窓に葉のへばりつく野分あと
星屑を掃く音かすか新走
どの人の項も月は知つてゐる
虫の闇別のひとつに呑まれけり


堀本 吟
もしもしと叢にいて藤袴
夕方の風を見にゆく吾亦紅
鶏頭やざんばら髪の主人公
鬼やんま目を剥く地球はどうみえる
皮蛋は鶉の卵ヨコハマに


田中葉月
栗名月ひらたいかほで正座して
ポニーテール爽やかに影きりにけり
引力に逆らつてみる草の絮
満月の音に触れゆく美術館


望月士郎
優先席ちょっと迷って南瓜を置く
駅前ロータリー月光のシャーレ
晩年の赤いゆらりと烏瓜
夫の口に南京豆を投げ省略
どの夜のどの星の下に孵ろうか
十三夜深海魚から泡ひとつ
ゆく秋の色鉛筆の十二使徒


筑紫磐井
幽明に松茸売りの声がして
太郎・次郎なら 芸術はパンプキン
誰も知らぬ井荻の駅に秋顆いろいろ


佐藤りえ
鳥になる鳥鳥にならない鳥跣
串カツが光つて見える喉に月
穭田にたまさか鳥も走りたい
もういいと桜紅葉も云つてゐた
折り紙で水を折れよといいしかと