鷲津誠次
頬骨の尖る老母よ夏の蝶
しかと見つめられおののく油虫
かなぶんぶん転校生にやたら寄る
先頭はくじ引きで決め蟻の列
咄家の善き友ならん雨蛙
木村オサム
万緑を見上ぐ胃腸の弱い人
不眠症水母の中は遊園地
手術室に無かったですよ風鈴は
朝曇顔の歯車噛み合わぬ
夕顔に合はせて土下座しに来たる
青木百舌鳥
りんりんと麦茶鳴らして配りけり
胡麻油香り鱧天穴子天
植樹して梅雨の濁りを汲み来たる
雌雄無きかたつむりとて紅濃きは
望月士郎
疑問符のかたちにみみず干乾びて
白玉のあたりを女医に診られてる
熱帯夜たらりたらりと砂時計
空蝉が背中に爪を立てている
どの窓も殺意やさしく大西日
浜脇不如帰
二千年オーバーエージ枠の神
百世紀かけて櫃まぶしをペロリ
成金を中トロで別件逮捕
すみません時間がなくて揚花火
らいてうのココロ毎秒半年後
箱眼鏡生温かりし壱気圧
十字架の鮎そのままのたなごころ
瀬戸優理子
リラの風整列拒む詩のことば
人見知り泡もてあそぶ天使魚
人形の臍の穴押す夕涼み
首強く突っ込む夏シャツの青年
十薬や我に残れる根暗の根
浅沼 璞
カルミアの一つ一つに目が入る
猫背にて健康サンダル健康です
サンダルのなき勝手口風ぬけて
三角形ばかりで山小屋を作る
山小屋の節穴の目を動かしぬ
夕焼を呼び上げにけり立行司
笹飾り吹かれて右へ右へかな
関根誠子
若葉風わたしイルカになつてゐる
刈り跡を鋭くめぐり夏の蝶
里山やゆつくり蝿に留まらるる
夏至南風沖縄はオキナワを忘れない
弁当売りにやつと日影のめぐり来し
小沢麻結
打水や濡れていきいき足の指
揚羽蝶見返す暇に見失ふ
ぐんと寄る峰雲初めての乗馬
小野裕三
傷心に虹と名づける選択肢
靴多き体操教師午睡かな
ゼリーとゼリー運ばれてくる食堂車
麻服を着て見殺しにしていたり
誰もかも歯並びのよき浴衣かな
観音に立ち姿ある雲の峰
噴水を待つ間のオーデコロンかな
曾根 毅
瀧迅し我の時間と異なれり
蛇苺人間の皮垂れ始め
肖像画青葉の闇に委ねられ
岸本尚毅
海光ることさへ暑き港かな
冷房のロビーに浮輪提げて待つ
戦隊のレツドを名乗る日焼の子
昼のことふとなつかしき夜釣かな
手で落す夏の落葉や作り滝
草のやうに薔薇が咲きをり避暑の日々
裏山に仙人草やうなぎ焼く
ふけとしこ
陵の草を刈らんと舟を出す
首筋へ蝉声寺の屋根が反り
山号は知らず涼風いただきぬ
なつはづき
蟷螂生る強運奪いあうように
姫女苑飛ぶには小さ過ぎる風
運び屋の帰りを待っている金魚
ハイビスカス現地時間であれば恋
すいかずらそっと引っ張る男運
チアガールのえくぼに夏の陽が溜まる
ずかずかと猫に踏まれる暑気中り
小林かんな
蒼朮を焚くくれないの蔵書印
ほととぎす人の子供も食べさせて
日日草地蔵の目鼻石に溶け
はも祭屏風の中に川小さし
コンチキチン昂ぶりのまま髪洗う
神谷 波
きまぐれな雨にざわつく青芭蕉
好きな言葉「明日」やまももシャーベット
強烈な日差し毅然と咲く蘇鉄
明易し狐にサンダル偸まれて
砲弾が飛び交ひ向日葵咲き乱れ
池田澄子
橡咲いていて茫然と空厚し
伸べし手をウフッとよけたでしょ揚羽
日本は初夏テレビにきらきら焼夷弾
真夜を猛暑のテレビニュースに文句あり
八月十五日テレビを点けっぱなし
夏百夜とどくとはかぎらないことば
加藤知子
毛のものはうんちのにおいみなみ風
夕立の初めの匂い忘れつつ
アイス棒舐めてしゃぶりて優柔不断
夏のはてあと何日自力排泄か
花デイゴ落ちて出会えるひとと落つ
なんでそんなこと言うのと夜の秋立ちぬ
杉山久子
草原となりしみづうみ星涼し
黒黴を殺す手立てを検索す
どん亀と呼ばれて昼寝より覚めぬ
坂間恒子
夕顔の微熱の闇に水を遣る
自販機の群生船虫の磁力
白木槿古代微笑の交わらず
さるすべり鏡に微熱あるような
仏の間戦ぐ音する青芒
山鳩の鳴けば晩夏のうす濁り
ヨット消えつややかなりし椿山
田中葉月
天道虫補陀洛へおすなおすな
青栗のしきりに落つる七七日
端居してアンダルシアの風の中
吸つて吐くただそれだけか月下美人
蟻の列それより先は異界なる
早瀬恵子
山高帽バイセクシュアルな薔薇の棘
スペイン語の愛称は「ガタ」夏の猫
エポックを愛せよ鱧の俳句バー
蔓は西に遠回りしてクレマチス
辻村麻乃
耳鳴
隧道の壁を殴りて梅雨に入る
風雲児連れて来らるる滝の前
胎内にシャーリラといふ木下闇
大ぶりの葉より大暑の風貰ふ
リンパ液揺れ蝸牛管まで蝉時雨
立葵立つる音まで嫌になり
自転車に置き忘れたる竹婦人
大井恒行
影の夏天地に被曝あらしめるな
眼には眼を 願いはるかや魂祭
重信房子白い小さな鶴折ると
仙田洋子
押し寄する貌・貌・貌や油照
原宿の赤ゆるぎなき氷水
祭の子おほきな人とぶつかりぬ
山車過ぎてまた天丼を食べ始む
人逝きてほろほろのうぜんかずらかな
どしや降りの一茎高き蓮の花
白扇の空を招いてゐる如し
水岩 瞳
ふらここやまだ歌へます校歌一番
春炬燵しまひ彼のことしまひけり
人間を無防備にする桜花
ゴム巻いて放つ飛行機なら夏野
夏草を刈つて交渉始めんと
学校は対面ばかり風死せり
万巻の花鳥諷詠きらら棲む
下坂速穂
乗らずに次のバスを待つ若葉風
木へ影を寄せて遠くへ黒揚羽
向日葵を包む異国の新聞紙
手応へのなき闇にして蚊喰鳥
岬光世
切通しへ人往きにけり紫荊
牡丹や雨の乱れを残す蘂
花菖蒲影を崩さず揺れにけり
依光正樹
さへづりの光を享けし女かな
桜あり今も故人の思ひあり
食紅を使ふ指濡れ八重桜
幾日も通ひ続けし八重桜
依光陽子
白湯淹れて朝はじまる梅若葉
何処よりの柑橘の香や花に雷
揺籃に影射すえごの若葉かな
木格子は木蔦を這はす夕立かな
佐藤りえ
ドローイングの爪伸びてゐる春霞
麦秋の野末に野菜売る戸棚
暇さうなカーネル・サンダースに風鈴
筑紫磐井
祝「篠」
しづかなる前衛といふ風が吹く
周辺に風吹いてゐる俳壇史
夜の秋夫と妻の隙間かな