2023年3月31日金曜日

令和四年冬興帖 第二/令和五年歳旦帖 第一(神谷波・竹岡一郎・堀本吟・渕上信子・仙田洋子・仲寒蟬・杉山久子)

【冬興帖】

神谷波
さざんくわ散る毎日毎日日が暮れる
白菜を一枚一枚剝ぎ寒し
水鳥のごちやごちやとゐて閑寂で
まじまじと見られて消えて雪女
 

竹岡一郎
三島忌の()の目乱れの刃文かな
三島忌の脂に曇る刀研ぐ
老いの手にあり三島忌の火炎瓶
ゲバ棒のかなた鈴振る憂国忌
吸はず古りゆく恩賜の煙草憂国忌
割腹の血に言霊に泥濘(ぬか)る雪
三島忌の血泥を進むうつほ舟


堀本吟
霜柱づゝといっぽん道にひび
冬の月蝕川面しずまりビル明るし
凍星のひとつナルキッソス一輪


渕上信子
百人一首暗記の季節十二月
日短かや百人一首すぐ忘れ
声高く賛美歌うたふ聖夜かな
深く好き『戦場のメリークリスマス』
冬温し国産小麦メロンパン
暖房の部屋に開きし綿の花
暮れやすし身辺整理迷ひつゝ


【歳旦帖】

仙田洋子
太陽の齢を畏れお元日
ちちははの余命僅かに初日かな
初日影赫赫と穢土照らしけり
玉手箱開けて山河の初霞
南国の鳥をはべらせ薺打つ
拳から拳へ鷹や淑気満つ
金銀の袋帯締め投扇興


仲寒蟬
独楽回しその路地ばかり暮れ残る
これはもう古本なのか去年今年
禍ひに蓋しておくれ雑煮餅
どうせすぐ飽きる双六ライン来る
木々はまだ影とひとつや初明り
賀状もう書かぬと書きし年賀状
ゆらゆらと成人の日の水準器


杉山久子
弾初のウクレレぽよん「いい湯だな」
どかと来てしばし居座る晩白柚
道端に遊ぶ子の声初日記

2023年3月24日金曜日

令和四年 秋興帖 第十/冬興帖 第一(なつはづき・中村猛虎・仙田洋子・仲寒蟬・杉山久子)

【秋興帖】

なつはづき
底紅やベッドに吐息まだ残る
木の実落つ消印有効のことば
竜胆や記憶の中に傘開く
仮縫いの気持ちのままで秋の蛇
菊人形実物大の愁いかな
藤の実や昨日の母が音になる
鯖缶を音なく開けて秋惜しむ


中村猛虎(なかむらたけとら)
ああ見えて水掻き続く鴨の脚
掌の中の神在月の浜の砂
失いし乳房の重さ黒葡萄
ハメマラの法則膳に菊膾
耶馬溪の色を吸い込む秋の川
秋彼岸あなたの胸に引っ越したい

【冬興帖】

仙田洋子
理不尽な死ばかりありぬ冬灯
狐火の向ふに男立つてをり
掘り起こす冬眠中の蛇らの眼
雪女郎そんなについて来られても
雪嶺や愚衆の思ひ寄せつけず
仙人の如し雨中の冬の鷺
寒晴や濁世をぬけて俳諧師


仲寒蟬
枯野へとつぎつぎ兵器送らるる
白鳥に訊くかの国の戦況を
「巫女さん募集」酉の市まで十日
虎の目を隠して襖半開き
七人の侍に似ておでん種
誰も見ず聖樹の裏のゲルニカを
鯨旋回しづみゆく北斗星


杉山久子
兎抱く鳴かぬからだをぎゆつと抱く
由緒なき寺の日向の寒牡丹
仔犬らしファー付きコート着て散歩

2023年3月17日金曜日

令和四年 秋興帖 第九(依光正樹・依光陽子・佐藤りえ・筑紫磐井)



依光正樹
挙げし手を光と覚え盆踊
繊月のかがやきながら地蔵盆
爽やかに月の街路を歩きたる
月見るに余念なき人露の中


依光陽子
秋蒔やライムを搾るやうに雨
新宿が見える塩辛蜻蛉とぶ
棚経や付箋だらけの誰の本
野菜苗買ひたる中の秋の花


佐藤りえ
鉄橋のまへもうしろも秋の昼
健康と紙に書かれて文化の日
白鍵を叩けど出ない音が秋


筑紫磐井
黄落期深く深くにテロリスト
がうがうと九月の星がうなるなり
鳳作忌不幸ならねど幸もなし

2023年3月10日金曜日

令和四年 秋興帖 第八(水岩瞳・堀本吟・渕上信子・下坂速穂・岬光世)



水岩瞳
月は見し石舞台でありしこと
何億と祈る人ゐる良夜かな
薄紅葉ひとりぽつちといふ素敵
不条理が増えて色濃しピラカンサ
寂しさが銀化してゐる芒原


堀本吟
秋灯し読みたい本が山積みで
一隅に雲かかりおる秋の空
いのこづち畳のへりは猫の道


渕上信子
秋の蝶はげしく縺れあふ刹那
料理ひとりで秋晴の日曜日
思ひ出はみな輝くよ秋夕焼
文化の日隣の庭も少し掃き
秋晴や三部合唱マスクして
赤蜻蛉いつもの道で少し迷ひ
深呼吸秋のをはりの晴々と


下坂速穂
竜胆を供へるころの空が好き
秋天や地図を片手に来て迷ふ
踏切の向うの秋を見つめたる
猫に似し何かがよぎる夜寒かな


岬光世
花の名を知つてゐるなり鉦叩
秋桜ふたり姉妹の写真かな
晩秋の日差しへ向きをかふる山

2023年2月24日金曜日

令和四年 秋興帖 第七(みろく・竹岡一郎・渡邉美保・衛藤夏子)



みろく
木仏の召す木の衣天高し
長き夜やジョーカーの端のつまみ跡
猫が砂掻く掻く秋思あるらしく
秋の暮切り絵のごとくモンステラ
国境てふ仮想現実颱風来


竹岡一郎
天啓を印す早贄永い足搔き
茸いろいろ酒浸る身にひらき煙り
酩酊の長夜の嘘へ鏡向け
肉さまざま瞋恚の色と冷ゆるを嚙む
谺無く自潰の戦車雁の影
四散無残不遜に太り熟柿と墜ち
落人は()む黒焦げの蝗串


渡邉美保
木犀の香を早退の理由にす
勾玉のかたちに齧り栗の虫
側溝を走るものあり赤のまま


衛藤夏子
映写機をまわす少年青蜜柑
朝顔の咲いて近道教えられ
バッタ飛ぶ宇宙ロケット発射の日

2023年2月17日金曜日

令和四年 秋興帖 第六(眞矢ひろみ・林雅樹・加藤知子・花尻万博)



眞矢ひろみ
逆光の芒野ねじの音すなり
国葬の先へさきへと秋ともし
山の秋千年待つも帰らない
影をみな朱隈のなかへ秋の暮
体育の日の言ひ様が歪なる


林雅樹(澤)
議員会館前喚く人ゐて銀杏臭ッ
柿干してありタコ足のハンガーに
夜糞るはせつなし竃馬もゐて


加藤知子
匿名が叱られ青蜜柑剥かれ
秋澄むや紅き器をカルデラといふ
桃吹くよう地雷踏むよう逝く女
青い骨白い骨へと照る紅葉
極私的林檎は桃と合体せむ


花尻万博
猪垣に集ふ子よ尻柔らかに
波幾つ鹿を巻き入れ枯木灘
舟に差す母のコスモス濡れ通し
唐辛子掴む子の手に何か灯る
直線に村過ぎ木の国の鹿よ
烏瓜過熟かおしやべりの過ぎ

2023年2月10日金曜日

令和四年 秋興帖 第五(曾根毅・木村オサム・瀬戸優理子・望月士郎・仲寒蟬)



曾根毅
蟋蟀の黒さ土葬の深さかな
匂い無き山頂に立ち月赤し
天の川それはきれいな耳の穴


木村オサム
回想の血はよく巡る曼珠沙華
曲り屋にオルガン並ぶ星月夜
郷土誌のぶ厚く積まれ馬肥ゆる
ひらがなのことばとびかふすすきはら
鼻唄のごとき本能虫の闇


瀬戸優理子
黒髪に戻して父と会う新涼
愛されて少女の勝ち気鳳仙花
魂送るまでの思い出話かな
星流る個人情報ひとつ消し
限界集落目玉患う鬼やんま


望月士郎
霧の駅ひとりのみんな降りて霧
一日の皮膚うすくして桃を剝く
そらいろの空箱かさねゆく秋思
流星や詩片がすっと指を切る
八頭たぶん鬼太郎の味方
からだからだれか逃げゆく月の道
月そっと心療内科をひらきます


仲寒蟬
秋立つやペンに注ぎ足す青インク
ひぐらしの深さを国の深さとも
盆燈籠あの世も混んできましたと
早稲の田や四方へ駆けゆく下校の子
月へ行く人へと出来たての団子
なぜこれが受賞するのか美術展