2017年3月31日金曜日

平成二十九年 歳旦帖 第七(木村オサム・水岩瞳・望月士郎・下坂速穂・岬光世・依光正樹・依光陽子)



木村オサム(「玄鳥」)
二本立ての松竹映画お元日
押入れの少し開きたる二日かな
三日はや練り歯磨きを出し過ぎる
無意識に入れる四日のパスワード
五日からいつもの碗と皿の音
縁側に妻の入歯のある六日
人日や対岸にあるわが猫背

水岩瞳
もう顔も浮かばぬ人の賀状かな
   若山牧水賞、「鳥の見しもの」吉川宏志
読初や反原発の歌あまた
人日のトランプ占ひ本曇り

望月士郎
賀状書く丹頂鶴を横抱きに
元日の風呂より電子のおんな声
節料理の内なるロシア・チリ・トルコ
初富士や次の世紀末は遠く
カニフォークのように四日の街に出る
いま誰かポッペン吹いた冬の月
鮟鱇のくちびる残し消えた町


下坂速穂(「クンツァイト」)
言付は焚火見つめてゐる人に
地を照らすやうに木が佇ち寒波来る
蕾数へ春立つまでの日を数へ


岬光世 (「クンツァイト」「翡翠」)
一服の一人のをとこ初詣
不揃ひに賑はふ壁の吉書かな
番の来て手触りの佳き福笑



依光正樹 (「クンツァイト」主宰)
泥ついて泥がはがれて冬の岩
川の面に冬日が差せば魚が見え
探梅やきらりきらりと胸の内

依光陽子 (「クンツァイト」「クプラス」)
睦月半ばの花鶏流れてゆくはやく
大寒や神さびにける石と幹
日と水のゆらぎを背ナに春支度