2018年3月16日金曜日

平成三十年 歳旦帖 第二(渕上信子・辻村麻乃・山本敏倖・夏木久・中西夕紀・林雅樹・飯田冬眞)



渕上信子
アップデートの不意に元旦
読初は日本国憲法
淑気満つ前文の「決意」に
ふくら雀の遊ぶ朝日子
梅かしら雪かしらゆふぐれ
残雪を踏み皆既月蝕
あはれ寒晴れ米軍機二機


辻村麻乃
頂上に烏立たせて山眠る
冬ざるる地蔵の袈裟の黒き染み
十屯の仁王の手形鐘氷る
三枚のセーター抜けて空は青
大氷柱武甲の海を宿しをり
枯木立角馬出になだれ込む
空堀や射したる冬日跳ね返す


山本敏倖(山河・豈)
初日出てどこか壊れる音がする
初富士にかかる神奈川沖の荒波
路地裏に半円を描き独楽走る
伊勢海老の尻尾が跳ねて天を突く
福袋から南南東をおぎゃあする


夏木久
狐火の上をドローンの彷徨く夜
子の影の犬に猫にも冬麗ら
ご遺族の室内楽は暗礁に
養蜂家風光るまでの放蕩
喀血を隠せし笑みや冬菫
檣林の風の捻れや術もなく
日が昇り手にす昨夜に研ぎし鎌


中西夕紀
細き糸曳きて鷺飛ぶ冬の朝
氷張る田圃と熊野神社かな
知らんぷりしてをり葛湯吹いてをり


林雅樹(澤)
温泉みゝず芸者VS竿師段平姫始
ひとしきり暴力振ひ姫始む
女礼者僕を無視するアティチュード


飯田冬眞
船底を叩く波音年新た
切りたての門松匂ふ筑波道
松飾すこし傾ぎてかまぼこ屋
初風に引き回さるる猿の綱
豚の子の声に囲まれ淑気満つ
じわじわと風を追ひつめ初鴉
本棚の隅に猫ゐる松の内