2018年3月2日金曜日

平成二十九年 冬興帖 第八(中西夕紀・北川美美・西村麒麟・佐藤りえ・筑紫磐井・羽村美和子・浅沼 璞・五島高資・高山れおな)

中西夕紀
細き糸曳きて鷺飛ぶ冬の朝
氷張る田圃と熊野神社かな
知らんぷりしてをり葛湯吹いてをり


北川美美
柴犬が戻つて来たり枯野より
太陽の赤く絞れる枯野かな
枯野より手を振る人のよく見える


西村麒麟
鯛焼や遊びをせんとたまに思ふ
石多き冬の赤穂を通過中
鳰泳ぐ鳰より別れ来し如く
鳰脚を揃へて沈みけり
着ぶくれてゐる人々や肉を焼く
別嬪でありし日の絵や鴨の宿
一つある円寂の図や初氷


佐藤りえ
釣り人はダム湖の冬日見て帰る
降るまでは雪ぢやなかつたやうな雪
店名の一文字欠けて冬灯
皆死んでちひさくなりぬ寒苺
寝穢くゐつづけ春を待ちやがる


筑紫磐井
君の心は小春のやうに虚子の穴
三階から落ちる老人枯一葉
人格者うさぎおいしく煮てしまふ


羽村美和子
品格に一番遠く海鼠ずき
模倣犯生半可にして枯れ薊
ポインセチア明日は知らない街歩く
水仙花風の誘いに乗りません
達磨落としこつんこつんと山始
表情筋夜ごと鍛えて 鮃
寒牡丹未明に月への船が出る


浅沼 璞
小春まだ元気かと腕にとまるよ
雪ばんば淡くにごりてよろけける


五島高資
鉄パイプ落ちて響ける枯野かな
紙垂光る内はほらほら鳥総松
嵩上げや小石に長き春の影
日は海を離れ蔵王の息白し
金星の残るインフルエンザかな


高山れおな
  自平成二十五癸巳至平成三十戊戌歳旦
癸巳 まきに まく ほねしやうぐわつ の じや の ねむり
甲午 うま と ゆめ はつしのゝめ を かけめぐる
乙未 はつくゝわい ひつじ の かは を わすれず に
  芭蕉寛永二十一年甲申、蕪村享保元年丙申、
  愚生昭和四十三年戊申。
丙申 さるめん を きゝ と つらぬる はつあかね
丁酉 とりのこ を かけて ぎんしやり しやうぐわつ も
戊戌 は を むいて まかみ ましら の ぎよけい かな
同  しゆくき とも かれいしう とも いへば いへる

【編集者注:6年分の歳旦帖なので冬興帖の末尾に入れました】