中西夕紀細き糸曳きて鷺飛ぶ冬の朝
氷張る田圃と熊野神社かな
知らんぷりしてをり葛湯吹いてをり
北川美美柴犬が戻つて来たり枯野より
太陽の赤く絞れる枯野かな
枯野より手を振る人のよく見える
西村麒麟鯛焼や遊びをせんとたまに思ふ
石多き冬の赤穂を通過中
鳰泳ぐ鳰より別れ来し如く
鳰脚を揃へて沈みけり
着ぶくれてゐる人々や肉を焼く
別嬪でありし日の絵や鴨の宿
一つある円寂の図や初氷
佐藤りえ釣り人はダム湖の冬日見て帰る
降るまでは雪ぢやなかつたやうな雪
店名の一文字欠けて冬灯
皆死んでちひさくなりぬ寒苺
寝穢くゐつづけ春を待ちやがる
筑紫磐井君の心は小春のやうに虚子の穴
三階から落ちる老人枯一葉
人格者うさぎおいしく煮てしまふ
羽村美和子品格に一番遠く海鼠ずき
模倣犯生半可にして枯れ薊
ポインセチア明日は知らない街歩く
水仙花風の誘いに乗りません
達磨落としこつんこつんと山始
表情筋夜ごと鍛えて 鮃
寒牡丹未明に月への船が出る
浅沼 璞小春まだ元気かと腕にとまるよ
雪ばんば淡くにごりてよろけける
五島高資鉄パイプ落ちて響ける枯野かな
紙垂光る内はほらほら鳥総松
嵩上げや小石に長き春の影
日は海を離れ蔵王の息白し
金星の残るインフルエンザかな
高山れおな自平成二十五癸巳至平成三十戊戌歳旦
癸巳 まきに まく ほねしやうぐわつ の じや の ねむり
甲午 うま と ゆめ はつしのゝめ を かけめぐる
乙未 はつくゝわい ひつじ の かは を わすれず に
芭蕉寛永二十一年甲申、蕪村享保元年丙申、
愚生昭和四十三年戊申。
丙申 さるめん を きゝ と つらぬる はつあかね
丁酉 とりのこ を かけて ぎんしやり しやうぐわつ も
戊戌 は を むいて まかみ ましら の ぎよけい かな
同 しゆくき とも かれいしう とも いへば いへる
【編集者注:6年分の歳旦帖なので冬興帖の末尾に入れました】