加藤知子【訂正】
春落暉大先生の掌ありしが
小沢麻結芽吹山秩父音頭の七七五
春疾風駄目出しの声なほ耳に
春の土なつかし荒凡夫とほし
竹岡一郎智慧の夜や眉間は春の焚火照り
立春の巌が国家視てゐたり
大兵のぬくき手や飢ゑ刻まれし
初蝶を非業の島へ送り給ふ
狼に常世の萌のはてしなく
小野裕三兜太なき春孤島も斜面も青くあり
早瀬恵子梅咲いて骨太のひかり瞑するや
やあやあやあ梅の空には兜太あり
杉山久子おおかみとともに行きたる野の青し
神谷 波庭の雪解けしばかりに兜太逝く
獺祭に鮫ひきつれてゆく兜太
真矢ひろみ
20年ほど前に、或る会に遅参した兜太を某俳人が厳しく叱責した際、「やあ失敬、失敬 年のせいかトイレが近くなり・・」と全く意に介する素振りなく、その茶目っ気ぶりに唖然とする
「やあ失敬」とおぼろ月夜を後にせり
春泥や秩父の民の還りたる
青鮫がゐる白梅に明くる朝
水岩瞳「戦争の影が・・」と兜太の年賀状
遥かなるこの春愁や兜太無し
大神になつて蛍をつけにけり
渕上信子庭中の梅の盛りや兜太の訃
逝かれけり白い花みんな咲いてよ
春の夜の遠火事視るは老いひとり
池田澄子秩父鉄道添いの去年の桜よあぁ
梅散りぬ秩父音頭をもう一度
中山奈々
兜太さんが亡くなったからといって、俳句人口の平均年齢が下がる訳じゃないのだけど、一気にみんな赤子のようになってしまった。
兜太忌は二月蜆の黒々と
蜆汁翁死すればみな赤子
献杯の酒安すぎてごめんなさい
木村オサムおおかみが無骨な岩に立っていた
どの本能膨らまそうか枝垂梅
青き踏む九百二年後の兜太
浅沼 璞火事一つ蛍一つをならべゆく