2018年3月9日金曜日

【歳旦帖特別版】金子兜太氏追善・弐(加藤知子・小沢麻結・竹岡一郎・小野裕三・早瀬恵子・杉山久子・神谷 波・真矢ひろみ・水岩瞳・渕上信子・池田澄子・中山奈々・木村オサム・浅沼 璞)



加藤知子
【訂正】
春落暉大先生の掌ありしが


小沢麻結
芽吹山秩父音頭の七七五
春疾風駄目出しの声なほ耳に
春の土なつかし荒凡夫とほし


竹岡一郎
智慧の夜や眉間は春の焚火照り
立春の巌が国家視てゐたり
大兵のぬくき手や飢ゑ刻まれし
初蝶を非業の島へ送り給ふ
狼に常世の萌のはてしなく


小野裕三
兜太なき春孤島も斜面も青くあり


早瀬恵子
梅咲いて骨太のひかり瞑するや
やあやあやあ梅の空には兜太あり


杉山久子
おおかみとともに行きたる野の青し


神谷 波
庭の雪解けしばかりに兜太逝く
獺祭に鮫ひきつれてゆく兜太


真矢ひろみ
20年ほど前に、或る会に遅参した兜太を某俳人が厳しく叱責した際、「やあ失敬、失敬 年のせいかトイレが近くなり・・」と全く意に介する素振りなく、その茶目っ気ぶりに唖然とする

「やあ失敬」とおぼろ月夜を後にせり
春泥や秩父の民の還りたる
青鮫がゐる白梅に明くる朝


水岩瞳
「戦争の影が・・」と兜太の年賀状
遥かなるこの春愁や兜太無し
大神になつて蛍をつけにけり


渕上信子
庭中の梅の盛りや兜太の訃
逝かれけり白い花みんな咲いてよ
春の夜の遠火事視るは老いひとり


池田澄子
秩父鉄道添いの去年の桜よあぁ
梅散りぬ秩父音頭をもう一度
    

中山奈々
兜太さんが亡くなったからといって、俳句人口の平均年齢が下がる訳じゃないのだけど、一気にみんな赤子のようになってしまった。

兜太忌は二月蜆の黒々と
蜆汁翁死すればみな赤子
献杯の酒安すぎてごめんなさい


木村オサム
おおかみが無骨な岩に立っていた
どの本能膨らまそうか枝垂梅
青き踏む九百二年後の兜太


浅沼 璞
火事一つ蛍一つをならべゆく