2018年8月10日金曜日

平成三十年 花鳥篇 第八(青木百舌鳥・井口時男・花尻万博・小野裕三・飯田冬眞・佐藤りえ・筑紫磐井)



青木百舌鳥(夏潮)
土砂降に乱るる岸に乗つ込める
初蚊来ぬ見違へるほどよく弾む
外房やアボカドライス生ビール
むく犬の和毛の艶や樫若葉


井口時男
蛇七態
ぞわぞわと青血泡立ち穴を出る
ひなげしを灯しおくぐるる溶けるまで
ウロボロス腹のあたりが膨れたる
お日がらようてお身がらようて皮を脱ぐ
つるみ合ふ鱗蜿々合歓の花
水うねり文身ぬめり虹二重
朽ち縄さみし白身の肌はそつと締め


花尻万博
美しき鴨居に垂れる鮎の宿
人死ぬ間花虻濡れてしまひけり
日の入りの陽射し返さず桐の花
母屋みな国の繋がる初蚊かな
鬼の子の足軟らかき代田かな
蠛蠓やさつきから鬼見当たらず


小野裕三
園児らはさあっと引き上げ桜の実
大皿に海の仲間を並べ初夏
出陣のごとき守宮の現れり
幸運な世界に移る雨蛙
おきあがりこぼしも並ぶ舟料理


飯田冬眞
たんぽぽの絮吹きだまる議事堂前
三叉路に顔なき地蔵蝶生るる
蛙合戦策略のなき後ろ脚
のど飴を片頬に寄せ春惜しむ
夏の鳥ヒエログリフは左向き
手の中に火の付きさうな杏の実
俳号も偽名のひとつ鰻喰む


佐藤りえ
HERMESの旗も五月の風の中
夏来たる鋏を研いでゐるうちに
夏暁の夢にてひらく哲学書
とむらひにひとつ氷をふふませて
かたはらの猫に聞かせる夜来香


筑紫磐井
きつと梅雨兜太を偲ぶ会の告知
濃あぢさゐ八百屋お七の墓隠す
御町内のゴミを集めて五月来る