2026年9月25日金曜日

令和七年 冬興帖 第二(神谷 波・田中葉月・加藤知子・曾根毅・山本敏倖・杉山久子・中西夕紀・豊里友行・仙田洋子)



神谷 波
人に影寄りそふてゐる小春かな
山眠り田はかしこまるばかりかな
裸木がぽつんと雲待つ鳥を待つ
年の瀬や降ったり止んだりしつつ暮れ
餅を搗く音やピリオド打つごとく


田中葉月
今今今を咥えたる冬の金魚
やまびこの声うらがへる寒満月
人参や孤心小さくきざみゐて


加藤知子
蓮池を掘るとふ男しぐれない
万葉に遊行女婦の舞う風花
寒月光に晒す大石内蔵助


曾根毅
太陽の沈まぬ夜の傾斜かな
鳥渡る氷河を黒い影渡る
カトマンドゥ夜は臓器のような街


山本敏倖
会釈して凍滝の深さ見上げる
棒パンを撫で切りにする寒月光
忘却がおっこちている枯野かな
寄鍋や昔の顔が煮えている
彫刻やこの枯蓮は明朝体


杉山久子
寒林を行くとき弱音吐きさうに
よく喋る家電三寒四温かな
着ぶくれて黄金のマスクに見入る


中西夕紀
数へ日の欠伸の人とぶつかりぬ
寝る吾に猫の出でゆく布団かな
風止めばそこに立ちゐる雪女
片貝となれば飛ばされ冬うらら
落葉踏むあれは歌つてゐるリズム


豊里友行
我が鉛筆よ星雲のこころざし
咳てぃーちたぁーちみぃーち冬樹の粉砕よ
しんしんと天体をなす消化器系
ひゅうひゅうと肺胞よ珊瑚礁の森
かんかんと蝶カーソルの建築中
煩悩まみれのカフカよ解熱剤
束の間の夢野へ虹の蝸牛


仙田洋子
先生の訃報とともに冬来る
るるるると水湧く音や冬はじめ
漱石忌猫集まつて来たる庭
日直の二人の机冬日差
竹馬の空も大地もぐらぐらと
ちちははの命尽きたり葛湯吹く
葛湯吹きちちははの思ひ出を吹き