2026年10月9日金曜日

令和八年 歳旦帖・春興帖第一/令和七年 夏興帖・秋興帖 補遺(鷲津誠次・村山恭子・水岩瞳・下坂速穂・岬光世・依光正樹・依光陽子・小沢麻結)

【夏興帖】

鷲津誠次
凡事こそ至難の業やあめんぼう
精悍な眉の遺影や夏座敷
告白の後の沈黙かき氷
麻のれん三日続けてたぬき蕎麦


村山恭子
木を植ゑてわが森とする五月かな
ペディキュアの薔薇を泉にひたしたる
仮の世の旅寝ことさら明易し
花梯梧ラジオの声が途切れたる
二の腕の真白きひとや水中花
鮎食うて明日の泳ぎの達者なる
煩悩を崩すごとくに心太


【秋興帖】

水岩瞳
あの頃の歓喜に触れず敗戦日
鬼灯は居間の灯りになりにけり
かなかなや戻らぬ兵の丸眼鏡
親と子が一つランプに台風来
二人して黙のしあはせ良夜かな
池の端秋の声して振り返る
手紙書く思ひ溢れて夜なべかな


鷲津誠次
機織屋の消えぬ灯りの無月かな
コスモスや輪郭柔く肖像画
泣き言は言わぬ晩年すがれ虫
小鳥来る子の音読の淀みなく


村山恭子
きつぱりとをんな答へる酔芙蓉
秋天に触れつつ登るタワーかな
からころと鬼灯鉢を持ち帰る
川風や踊り納めの下駄の音
たれかれの墓の白菊かれてをり
秋深き四方に水あるむすびの地
びいどろの風や荒野の渡り蝶


【歳旦帖・春興帖】

下坂速穂
葉を踏めばその木のことを年の暮
年忘一人は椅子に正座して
お参りの帰りは梅を探りもし
年始呑めぬ人へもちよと注いで
水温む人の寝癖は愛らしく
いつまでも言葉にならず青き踏む
永き日の鳥影ばかり胸に入る
いつもより明るき五時を燕来る


岬光世
獅子舞の先頭の脚細うなる
如月に閉づる商ひ松納
干支の飴舌に転がす小正月
集ひたる山懐や節分草
涅槃絵を奏でをへたる手を解きぬ
如月や雨見ぬ人の肩濡れて


依光正樹
船べりに大風が来て年用意
竹揺れて土を踏み踏み年詰まる
切手蒐め交換もする年男
狐似の焚火好きなる女かな
すみだ区と書けば春めく隅田川
川に鳥河原に春の帽子かな
歌ひ出でししづかに花を賞でるやうに
雨止んで春の友来る予感かな


依光陽子
書きかけのおろそかの書や冬至梅
くりかへす旋律年の瀬の迫り
事業計画門松の取れたれば
卓の上にものがなしさの鬼の面
彼岸会やドアを開けば鏡ある
姿見の傾きに母はるのひる
春はあけぼの自分の声の離れてゆく
てのひらが腕につながる暮春かな


小沢麻結
初夢にづかづか女三人来る
救助ヘリ雲間より出づ出初式
寒鴉わたし知りませんとそつぽ
  ・
立雛の寄り添ふ如し立子の忌
小一時間探すアドレス春寒し
蒼天へマグマ噴く色花アロエ