2021年10月15日金曜日

令和三年 夏興帖 第五(大井恒行・鷲津誠次・山本敏倖・水岩 瞳)



大井恒行
紫陽花や忘れ上手は生き上手
夏空を眺め体中が痛い
葉月この五彩の雲に風に乗れ


鷲津誠次
鷺草や旧街道の投句箱
整備士の昼餉だんまり蝉時雨
朝涼やゲートボールの高笑ひ
男子寮の解体始む西日濃し


山本 敏倖
生前へ揚羽の後をついていく
ひまわりのトルテ二等辺三角形
感情は展覧会の弱冷房
油蝉廃車置場の出口かな
噴水の規則性のない楕円


水岩 瞳
黴の世や見えぬ黴ふく何処をふく
ワクチンの是非のもやもや髪洗ふ
開脚も逆立ちもせぬ素足かな
オリンピック中止すべきとキャベツ抱き
金メダル幾つ取つても黴の国
蚊を叩く快感は血をともなへり

2021年10月8日金曜日

令和三年 夏興帖 第四(辻村麻乃・曾根 毅・小林かんな・望月士郎・神谷 波)



辻村麻乃
夕闇の道塞ぎたる蟾蜍
勢ひのいや増す川瀬河鹿鳴く
昼寝覚赤子の窪み残りたり
夾竹桃歯科医の指の苦みかな
歌声や実梅落ちたる隠沼に
老鶯応うる水の流れれば
蛍光灯点いては消えて梅雨の宿


曾根 毅
泥酔の女を愛し山棟蛇
骨と骨ぶつかり鳴れる夏蒲団
心経や蓮のつぼみを湿らせて


小林かんな
園丁に暇をやりぬ巴里祭
青ひげ公露台についている花粉
物部氏ここに敗れし未草
深く礼本殿に蚊も参る頃
緑酒の杯一斉に浮く夏座敷


望月士郎
ほたるぶくろ黙読のふと独り言
白地図の上をどこまでも白靴
プールより人いっせいに消え四角
ががんぼの脚取れ夜が非対称
湖にひらく掌篇オオミズアオ


神谷 波
やまももがいつぱいラジオからジャズが
曇天やかきまぜかきまぜやまもも煮る
やまもものジュースをおませな女の子と

2021年10月1日金曜日

令和三年 夏興帖 第三(加藤知子・仲寒蟬・網野月を・岸本尚毅・坂間恒子)



加藤知子
新緑を絞めた手明日は浦安
はつ夏の天使の羽はみゅうと鳴く
江戸川水門無痛分娩痛のあり
前面に女陰あらわが五月晴
青葡萄シーラ・ナ・ギグの宿りかな


仲寒蟬
空中に鳥静止させ青嵐
門柱に薔薇を這はせて魔女の家
葛切を加筆されたる壁のメニュー
裏口の水桶に酒登山小屋
中洲に鵜鳴くほどに月昇りゆく
背泳ぎの雲呼び寄せてをりにけり
両足を海へ突つ込み虹くつきり


網野月を
性別は別せぬものに星祀る
天皇が頭を下げて秋めきぬ
平和とは油絵の餅か玉葱
ひしゃげた奴が元気な馬に瓜と茄子
手踊の外輪をそつと抜けにけり
寒蟬や外灯一つ幽霊に
テレビの中のつづくの文字や法師蟬


岸本尚毅
紫陽花が頭の如く暗がりに
来ては去る人に雨だれ虎が雨
黒雲のしづかに蟬のなきつづけ
墓原や空蟬草に墓石に
梵妻の粉もてつくるソーダ水
明易や見えて色なき家具調度
避暑の町淋しやアーティチョーク枯れ


坂間恒子
虹ふたえ額田王袖をふる
青芒風の言葉を研いでいる
薔薇(そうび)拒食症の眼とも
仙人掌を捨てし日のことはくらやみ
黒揚羽柩の蓋をあけにくる

2021年9月24日金曜日

令和三年 夏興帖 第二(渕上信子・木村オサム・中村猛虎・花尻万博)



渕上信子
生麦酒オータニサンのホームラン
子蟷螂世界を敵に廻すなよ
ボリス・ジョンソン面白き人アイス・ティー
径はゆるく右折してをり遠郭公
アイスキャンデー感染者数の棒グラフ
七夕や夢つつましく叶ひがたく
箱庭に幸福なひと立たせたり


木村オサム
耳一つ落としておかむ蟻地獄
手相見が言う「蟻地獄しか見えぬ」
独り言多し隣の蟻地獄
蟻地獄だらけだが吉兆らしい
仰向けの死顔にある蟻地獄


中村猛虎
 「テロ」
詠む人しか読まない句集水羊羹
人間の進化の先の蝸牛
ステージ4螢を逃してあげたのに
暗黒物質の中より竹婦人
蓮の実飛ぶイスラム国の空白地
人類を繋いでまわる揚羽蝶
ブラックホールに飛び込んで行く蟇


花尻万博
吊り橋のどこ揺らしても母が居て
初めての流灯会子にきらきらす
昼蜥蜴砥石の水を曳きゆける
目覚めたる子に晩涼の上座かな
寂しさの似たり寄つたり簾揺れ
花火の夜水に何かの気配する

2021年9月17日金曜日

令和三年 夏興帖 第一(なつはづき・堀本吟・飯田冬眞・青木百舌鳥・杉山久子)



なつはづき
あの言葉この言葉夏野から持ち帰る
辰雄忌や驢馬柔らかく風にいる
カタカナが舌にもつれて梅雨寒し
夕虹や心が透けそうなドレス
炎帝がみっしり席を埋め五輪
裸足から幼さ消える片思い
のうぜんか会釈のように日差し揺れ


堀本吟
長い触手がゆるゆる水母水くさし
炎天のマスク脱ぐまいエチケット
歩道橋犬とマスクをして夫人
朝顔や水道工事の穴だらけ


飯田冬眞
憲法記念日池にはびこる外来種
修司の忌澤田和弥のいない夜
夏の星宿のタオルを首にかけ
語り継ぐ革命前夜ジャスミンよ
朝帰り月下美人を置き去りに


青木百舌鳥(夏潮)
花あふち木蔭に風を招じけり
バナナ撮る足を揃へて裸婦のやうに
畳まれて記憶小さし梅雨籠り
夏草の花ののんどを擦る葉も


杉山久子
蜘蛛黒く太りたる嵌め殺し窓
剽窃のしづかな蠅として集る
マスクよしっ滅菌シートよしっ晩夏

2021年9月10日金曜日

令和三年 花鳥篇 第十一(仲寒蟬・早瀬恵子・井口時男・佐藤りえ・筑紫磐井・のどか)



仲寒蟬
梅林に迷ひしことは伏せておく
鶯の森の明るさ湖よりす
三方に奇岩絶壁桃の村
草を編むネアンデルタール人の春愁
お若いですねと言つて筍をもらふ
しまはれぬ翅だらしなく兜虫
海月に聞けその海流のことならば


早瀬恵子
スノッブな風のごちそう花見鳥
花パワー天地返しの自粛の園
バロックはロックのオンかパンジー茶
而して母の金魚は喪の素振り


井口時男
春宵の「居酒屋馬酔木」灯りけり
逃水や王国いくつ亡びたる
遠富士へ言の葉若葉ちぎり行く
すひかづら日暮の母の足の裏
ルノワールの少女らにサァ薔薇の鞭


佐藤りえ
測るがに尾を振り回す春の牛
枇杷の実や蓋を組み合はせて遊ぶ
デスメタル聞かば聞けとし夜光虫


筑紫磐井
ドクホリディは死なず炎天なる決闘
助五郎(きょうかく)を葦原雀贔屓にす
  北川美美を思い出し
死んで十両生きて五両の洗鯉


のどか
白鳥座へ戻る交信時計草
素足の子ペディキュアでする自己主張
父の日の似顔絵に濃き鼻毛まで
木耳や百鬼夜行に遅れたる
勝鬨や木耳数多亡者めく

2021年9月3日金曜日

令和三年 花鳥篇 第十(下坂速穂・岬光世・依光正樹・依光陽子・網野月を)



下坂速穂
花の雨花の嵐となりつつあり
空にありし枝を集めて烏の巣
つつ立つてゐるは燕を見てゐたる
青葦や人は遠くへゆきたがり
   

岬光世
葉桜やバックハンドがまだ苦手
硝子戸の閑かに昏き杜鵑花かな
浜木綿の花もやもやと咲き初めて


依光正樹
春禽のよく鳴くこゑもおもてなし
鰻食うて旬の花々活けもして
日々のもの食うてうれしき夏料理
水草の花やあたりをうち鎮め


依光陽子
叢雨や砂を噛んだる野梅の根
うぐひすや色を少なく咲く庭に
かなしみの消し方茅花流しかな
ふりほどく光は夏のかもめかな


網野月を
記入漏れの生年月日若葉騒
ハンカチもリボンも黄色麦の秋
梅雨流すステンレス製すべり台
誕生日に満期の定期夏至る
白ワイン赤でもショーレ薄暑光
うかつにも女性専用車に雷火
欲張りな女神に捧ぐ火取虫