2024年12月20日金曜日

令和六年 夏興帖 第六/秋興帖 第五(眞矢ひろみ・渡邉美保・村山恭子・川崎果連・前北かおる・山本敏倖・青木百舌鳥・冨岡和秀・花尻万博)

【夏興帖】

眞矢ひろみ
野佛の微笑み深し蛇苺
青鬼灯女系家族の一男子
薬玉やかすかな風に犀を嗅ぐ


渡邉美保
ふうと息吐いて鉄砲百合ひらく
血豆浮く腐草螢となる夕べ
炎昼のベンチにバスを待つ黒衣


村山恭子
大屋根に水の刻印あやめぐさ
スカイブルーのインク封蝋は薔薇
桑の実をつぶす指さき自我の香よ


川崎果連
国境の膠の溶ける油照
山の蛇うちへ誘うがついて来ぬ
スカートの中へかくまう青大将
前例の始まりはいつ土用波
死んでから無罪とわかる金魚たち
つぶれてもトマトはトマト思想犯
片蔭に入っては出て鳩飛ばず


前北かおる
漂流す麦藁帽の画描のせ
日に焼けて漂流船に仁王立ち
絶海に炎帝とこの難破船


【秋興帖】

山本敏倖
砂絵を濡らす月光のカタルシス
蜻蛉来て国旗の赤に染まりけり
にんげんに向かう舟あり十三夜
分身は野菊に倣い馬に乗る
江戸前の新蕎麦すする紀尾井町


青木百舌鳥(夏潮)
古家や残る暑さを拭掃除
野分逸れけりからり空缶を捨つ
コスモスの揺れつつ伸びてゐる感じ
新米の籾をざらりと見せくれし


冨岡和秀
うるわしの背の刺青や雪女
解放の神学となるAとV
大三輪の緑を息する偏執・分裂
メランコリーの裂け目から沸く傑作集


花尻万博
赤々と漁婦羽ばたく台風圏
コスモスを一直線に巡礼よ
おつとりと鬼灯つひに恋をする
明日あると思ふ和歌山唐辛子
曼珠沙華散りゆく普通の花として
芒原詰めの甘さを残したる
表現の終はり台風賑やかに

2024年12月13日金曜日

令和六年 夏興帖 第五/秋興帖 第四(山本敏倖・冨岡和秀・花尻万博・望月士郎・青木百舌鳥・加藤知子・豊里友行・木村オサム・中西夕紀)

【夏興帖】

山本敏倖
六月ははや吊るし人形である
夏座敷居留守の音の尻尾出る
入念に余白を隠す女郎蜘蛛
古事記からくちなわの音盗みおり
中世の木霊を連れし麦の秋


冨岡和秀
弔いの鐘が鳴るなり疫病期
滑空のスキー転んで鳥探し
捉われて身口意(しんくい)放つ手術台


花尻万博
蛇一つ泳がす雲のみだれかな
木苺や熊野kumanoとツーリスト
お花畑ここ城跡と言はれても
Coca-Cola気にはしている道をしへ
100%ブーゲンビレア西日かな
長々と出口を探す木下闇
都合よくクロアゲハさへ味方して


望月士郎
言葉はぐれて夕べ蛍という鎖線
夜店の灯真っ赤なものを舐めている
包帯を濡らさぬように金魚掬う
等分にメロン切るときやや船長
聞き返す二度目は少しかたつむり
蜘蛛の巣の張られて空が神経質
星涼し脊柱そっと管楽器


青木百舌鳥(夏潮)
老鶯が四五羽それぞれ癖もありて
鶏糞が匂ひ夏葱畑かな
銭蔵に千両箱は無く涼し
高原やトマト棄てつつ販ぎつつ


加藤知子
崖墜ちし汝れ美しとふ梅雨の蝶
今年竹の切り口に憑く金剛鈴
滝の上の水落つ捨身飼虎のごと
揚羽蝶守護霊のごとひらひらす
死者の家蜥蜴が走る朝帰り


【秋興帖】

豊里友行
鰯雲あふれる愛の言霊よ
稲光レベルの属国コンセント
銀河系の回廊なり螽斯
いのちをもやしている戦火のまなこ
でで虫の敬老会の父と母
ブルーシートのあと桃太郎の誕生
原爆と戦争展の鰯雲


木村オサム
シャンプーの香りの美僧秋の昼
波平の一本を抜く龍田姫
あきらかに人間寄りな桃潰す
簡単に口割るスパイ猫じゃらし
凶作の地から古本掘り出さむ


中西夕紀
海を背に昔酒場の蔦紅葉
とんばうや海につながり湖暗し
秋燕やバスの待ちゐる外国船
あけび持つ小山君てふ迷子かな
赤い羽根つけて木陰に待つ演者

2024年11月15日金曜日

令和六年 秋興帖 第三(岸本尚毅・坂間恒子・ふけとしこ・仲寒蟬)



岸本尚毅
扇風機の風ゆるやかに秋の蠅
ミヒャエルといふ老人や花煙草
表札の無くて人住む穴惑
この町にプロレスが来る草の花
居る蠅のただぼんやりと糸瓜かな
壁白く人の影あり美術展
手の甲を嗅がせて奈良の鹿いとし


坂間恒子
実むらさき声だすものに群鶏図
月光に呼ばれたものから折れる
デユーラーの視線の先の曼珠沙華
心象の岸辺の馬に秋がくる
シャガールの驢馬の声する秋の虹


ふけとしこ
こほろぎや函を出渋る昭和の書
秋の日を針出して死ぬ蜂ありて
月を見て木星を見て雲を見て


仲寒蟬
八百長の疑惑も愉し西瓜割り
秋の蚊といふといへども痒きこと
身上は揺るることなり酔芙蓉
懐柔は無理いきりたつ蟷螂に
蚯蚓鳴く兵馬俑にも聞こゆらむ
人よりも案山子が多いではないか
耳打をされて角力の本番へ

2024年11月1日金曜日

令和六年 夏興帖 第四/秋興帖 第二(木村オサム・中西夕紀・辻村麻乃・神谷波・瀬戸優理子)

【夏興帖】

木村オサム
迷宮をあっさり抜ける羽抜鶏
内側はサンバのリズムかたつむり
ががんぼが来るが昨夜の壁がない
空蝉が樹の出奔を留めをり
顔上げて天牛の噛む雨雫


中西夕紀
じゅくじゅくと葎すずめの不満らし
雨太き浮世絵に入る涼みかな
水飛ばし帆を洗ひをる裸かな
そこそこに友人もゐて泥鰌鍋


【秋興帖】

辻村麻乃
息苦しきほどの雲よ秋の雷
失くしたと思うて出会ふ明けの月
長き夜に長き手紙を書きにけり
揺蕩うて淡くなりたる恋螢
笑ひ声溢るる校舎稲の花
彼岸花左岸に土砂のどつさりと
きつちりと壁に沿うたる秋日射


神谷波
秋暑し石割れ石の溜息が
包丁を研いで新米炊きあがる
ひよつこりと厨の窓に小望月
名月に見守られつつ眠りけり


瀬戸優理子
ほどほどがわからないまま花野風
ピアノ曲転調のたび水澄みて
育休産休林檎の蜜の満ちるまで

2024年10月25日金曜日

令和六年 夏興帖 第三/秋興帖 第一(ふけとしこ・仲寒蟬・豊里友行・曾根毅・大井恒行・仙田洋子)

【夏興帖】

ふけとしこ
垂直に虹立つ草原ならば行く
熱中症警戒アラート鷺白し
雷が近しハシビロコウが立ち


仲寒蟬
呼び捨てにして信長の忌なりけり
バビロンの滅亡に似て牡丹散る
首を振る鳩が許せず夕涼み
扇風機旧知のごとくささやける
兜虫関節痛さうに歩く
賓客は舟にて来たり燕子花
放ちたる金魚ふたたび掬はるる


豊里友行
天体をたぐる音叉の赤ん坊
魚群の民意へ大浦湾の杭
銀河系蠅一点の集中力
天体のワルツが弾む林檎飴
一挙一動の宇宙よ兜虫
PFASの疑念湧く水筒も眼玉
赤子泣く此処は天体オーケストラ


【秋興帖】

曾根毅
青饅の歯に挟まりし運動会
流れ星のイエスが過ぎて鱗と漁夫
青天渺渺火に包まれし鶏頭花


大井恒行
秋灯下多摩蘭坂の古本屋
翳る秋父は何処の雲に鳥
秋鮭の卵こぼして波だてり


仙田洋子
還暦を過ぎをみなへしをとこへし
蕎麦の花淋しきときは声を出し
垂直の虹の切れ端台風過
鳥も子もすでに眠りぬけふの月
眠りゐる鸚哥をつつく良夜かな
年寄の日の年寄の酔つ払ひ
戦争の惑星の空鳥渡る

2024年10月18日金曜日

令和六年 夏興帖 第二(神谷波・瀬戸優理子・岸本尚毅・鷲津誠二・坂間恒子)



神谷波
水無月の雨音こきみよき軒端
夕立の後鉾杉の誇らしげ
老夫婦だけとなりたる百日紅
打打発止太陽と熊蝉と
散髪をしてきたばかりらし日傘


瀬戸優理子
チョコミントアイス止まらぬ温暖化
カッペリーニ待つ夏蝶を見失う
昼寝覚プリンはちょうどよい固さ


岸本尚毅
満面に口ある鯉や青あらし
茅の輪くぐる人を水鉄砲で撃つ
這ふもゐる夏蚕の匂ひほのぼのと
味噌汁に海老の頭や雲の峰
罰杯を高くさしあげビアホール
冷房や札に銭のる募金箱
日盛や役所掲ぐる日章旗


鷲津誠二
夕立やいよゝ凛々しき開墾碑
不登校の家にすくつと大向日葵
片ゑくぼ亡き母に似て藍浴衣
うたた寝の駄菓子屋の婆蚊遣り香


坂間恒子
白昼の鶏鳴あがる栗の花
かすかなる馬の嘶き忍冬
黒揚羽一頭ひそむ水琴窟
どこまでも鉄路のひかり夕蜩
ゴ-ギャンの裸足の娘と目が合った

2024年10月11日金曜日

令和六年 夏興帖 第一(小野裕三・曾根毅・大井恒行・仙田洋子・辻村麻乃)



小野裕三
白靴の昔の形なりにけり
夏の瀬を偽者となり歩くかな
虎の字を名に含ませて夏木立
兄弟子が最後に残る滝見かな
鏡よ鏡昼顔のある生活
親友になれるなれないハンモック
フランスのありとあらゆる夏の旗


曾根毅
欄干に男の集う海月かな
身支度に紛れ込みたる夕蛍
青葉山父の腋から溢れ出し


大井恒行
青芒傷つき抱く昼下がり
火炎なか闇笛草笛祭笛
ひとすじの神に吊られる夏の兵


仙田洋子
夏草やドーベルマンの貌ぬつと
産声に万緑の山目覚めけり
蒼穹に太き虹あり重信忌
言の葉のしづかやはらか月涼し
ひとりには大きすぎたる緑蔭に
ほどほどに離れて鷭と大鷭と
老いながら青蘆原に紛れゆく


辻村麻乃
あめんぼの求婚波を掴みたる
選択の光受けたる蓮の花
いづれかが落つる定めよ柿の花
卯の花腐し他人のやうな一人つ子
病とは白き野にあるハンモック
振り向きて鶴の貌なり半夏雨
合歓の花閉ぢて光を仕舞ひけり